危ないって自分で書いている会社の株、
買う?

――リスクの記述だけで94ページ

写真はイメージ Photo by Anne Nygård on Unsplash

10/27 14:11 / 発信国:アメリカ / 記者:工藤

「人類に破滅的リスク」と書いて上場申請したAnthropicの株、買う?

AnthropicがアメリカのSEC(証券取引委員会)に上場の申請書を出した。10月26日だ。ナスダックに上場し、株のティッカーは「ANT」になる。書類はSECのサイトで公開されている。

申請書には、自社の高度なAIについてこうある。安全策や監督、セキュリティの措置が足りないまま開発・運用されれば「人類にとって破滅的または存亡に関わるリスクをもたらしうる」。特に危ないのは「悪用され、複製され、兵器化され、あるいは高い自律性をもって動くことを許された場合」だという。

売るものを、売る本人が「人類が滅ぶかもしれない」と書く。それで株を買ってくれと言う。通るのか、これは。

赤字12兆円の会社が、314兆円を狙う

報じられた申請書の数字では、今年1〜6月の売上は163億ドル(約2兆5,600億円)。同じ半年の赤字は807億ドル(約12兆7,000億円)で、2025年の1年分の2倍だ。手元の現金は1,124億ドル(約17兆6,000億円)ある。

積み上がった印刷書類
写真はイメージ Photo by ron dyar on Unsplash

狙う時価総額は2兆ドル(約314兆円)。BBCは、この夏に上場したSpaceXの約1.8兆ドル(約283兆円)を超え、史上いちばん大きな上場になると伝えた。ただし株価も、売り出す株数も、上場日も、まだ決まっていない。一方で計算資源には、10年で5,180億ドル(約81兆円)の、ほぼ解約できない支払いの約束がある。

Fortuneによると、申請書は約300ページで、うち約94ページがリスク要因だ。なぜ、絶滅の話まで書くのか。ここは会社が自分の危なさを並べる決まりの章だからだ。ただAnthropicの場合、中身が重い。自社のモデルが「停止に抵抗する」「情報を隠したり操作したりする」「脅迫に似たふるまい」をした、と自分で記している。安全上の心配から、次の世代のモデルの訓練を1か月以上止めたこともあるという。

「だから買うな」と言った人がいる

ウォール街の多くは、この種の記述を「書く決まりだから書いてある文章」として読む。レイモンド・ジェームズのマット・オートンは、申請書が市場に「より多くの見通しを与える助けになる」と話した。関心は、売上がどこから来ているかに向いている。

データセンターに並ぶサーバー
写真はイメージ Photo by Taylor Vick on Unsplash

警告をそのまま受け取った側もいる。調査会社ニュー・コンストラクツのカイル・グスキー2世は、10月6日の分析でこの上場を「2026年のいちばんばかげた上場」と呼び、「投資家の軽信さを前例のない形で試すもの」と書いた。同社が付けた値段は1,500億ドル(約23兆5,000億円)。会社が狙う額の13分の1以下だ。

結論は「この新規上場は見送るよう勧める」。理由を4つ挙げていて、その1つが、申請書に書かれた破滅的リスクの警告そのものだった。人類を脅かしうる製品で創業者が莫大な富を得るのは妥当なのか、と問うている。2兆ドルに見合うには、2035年の売上が、大手AI企業7社の直近1年分を合計した額の1.4倍に届く必要がある、という逆算も示した。

ネットの評判

Hacker Newsでは、申請書を紹介した投稿に1,388件のコメントが付いた。だが議論の中心は、人類のリスクではなかった。10年で5,000億ドルを超える計算資源の支払いに見合う需要が本当にあるのか、AIが安い共通品になって利益が削られるのではないか、という話に集まった。「結局は、需要が本当にあるのかという一点に戻る」。この声が上位に並んだ。

ニュー・コンストラクツを取り上げた別の投稿(217件)では、逆の声も出た。同じ調査会社はSpotifyやUberの上場も失敗すると予想して外している、という指摘だ。「2024年にほぼ0だった売上が2025年に40億ドル、2026年はその15倍になりそうだ。こんな速さで伸びたものが過去にあったか」という書き込みもあった。

では、警告を本気で受け取った人は、株を買ったあとに何ができるのか。AI業界を追う報道サイトimplicator.aiのマーカス・シューラーは、申請書には安全の約束を投資家が守らせる仕組みが一つもない、と書いた。創業者が財産の8割を寄付するという誓いも「自発的で、撤回できる」もので、法的な義務はないと申請書自身が認めている。

創業者7人の会社が持つたった1株で、主要な議案の議決権の50.1%が決まる。取締役の過半数を選ぶのは、株を1株も持たない信託だ。株を買った人の票は、そのどちらにも届かない。

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