ログインだけは
ちょっと待って

――TechRadarの記者が、買い物を任せたAIに

10/28 18:12 / 発信国:アメリカ / 記者:工藤

「全部つなぐ」か「探すだけ任せる」か Meta Museの使い方を比べてみた

買い物をAIに任せるとき、どこまで預けますか。全部つながないと意味がないのか、それとも途中までで十分なのか。

米テックメディアのTechRadarが9月14日に載せた体験記が、その線引きを考える材料になりました。エリック・ハル・シュワルツ記者がMetaのAIエージェント「Muse」に短パンを探してほしいと頼むと、Museはサイズを聞き、候補とセール品を並べ、そのうえでAmazonへのログインを求めてきたそうです。記者はこの場面について、安心と不安が同じくらいあったと書いています。自分のアカウントに全部サインインさせてくれと頼まれるのは、不気味に映ることもある、とも書いていました。

Metaの「Muse」とは

Museは、Metaが2026年9月8日に公開した個人向けのAIエージェントです。公式の発表では、質問に答えるだけでなく実際に作業をすることを売りにしていて、メールの送信、旅行の予約、フォームの入力、買い物までこなすとしています。

使えるのはiOS、Android、ウェブ(muse.ai)、WhatsApp。AIグラスへの対応は今後の予定です。料金は基本が無料で、TechCrunchによると月20ドルの「Power」と月100ドルの「Maximum」という上位プランがあります。提供地域は米国とカナダで、日本では提供されていません。

10月21日のMetaの決算説明では、公開から約6週間で米国とカナダの1,000万人超が設定を済ませ、そのうち約25%が毎日使っていると報告されました。いちばん多い使い方は買い物で、利用者の4分の1超が買い物に使い、1回の平均購入額は200ドルを超えるそうです。想定より取引が多く、決済のStripeに与信枠の引き上げを頼んだという話も出ていました。

今回比べるのは、この2つの使い方

ひとつは「全部つなぐ」。メール、カレンダー、通販のアカウントまで接続して、決済まで任せる使い方です。

もうひとつは「探すだけ任せる」。商品探しと比較だけ頼んで、ログインと支払いは自分の手に残す使い方です。

買う人が本当に迷うのは、たぶんこの2択でしょう。

公式の説明を読むと、「探すだけ」でも成り立つ

Metaの発表では、Museはその人専用の仮想マシンの中で動き、「Sentinel」という別のAIが外への通信を一つずつ許可する作りだとしています。パスワードについても「Museに人のパスワードや支払い方法が見えることはない。預けた認証情報は安全な保管領域に入り、Museは中身を見ずに使える」と書かれています(訳)。購入やメール送信のような操作の前には、必ず本人に確認するという説明もあります。

ここまで読むとつないでも平気そうに見えますが、Metaの研究ブログには留保も書かれていました。「Museは攻撃に無縁ではない。プロンプトインジェクションは業界で未解決の問題であり、Museも時には間違える」(訳)。今の作りでは、運用や保守に必要な場合にMeta側がデータにアクセスすることは防げないとも明記されています。それを暗号で防ぐ「Muse Confidential VM」は、年内の予定とされています。

では「探すだけ」は成り立つのか。冒頭の体験記にヒントがありました。候補とセール品が画面に出てきたのは、ログインを求められる前です。探して比べるところまでは、アカウントをつながなくても動いていたことになります。

Amazonが決済を止めた

9月20日から21日にかけて、AmazonがMuseでの決済を遮断しました。公開から12日ほどです。利用者には、許可されていないAIエージェントがアクセスを続けることはAmazonの利用条件に違反する、という内容の表示が出るようになりました。

PPC Landによると、Amazonの言い分は3つです。MuseがAmazonのストアで動くことに同意していない、エージェントが閲覧時に自分を名乗らない、顧客の認証情報を取得して保存しているように見える。AmazonはこれまでもPerplexityのComet、Google、OpenAIの買い物エージェントを制限してきました。

つまりAmazonではいま、「全部つなぐ」という選択肢がそもそも消えています。残っているのは「探すだけ任せる」のほうです。

1,000ドルの節約は、35ドルだった

TechRadarには、もう1本気になる検証がありました。MetaのチーフAIオフィサーがMuseで1,000ドル節約できると語ったのに対し、同誌の記者が自分で試したら、節約できたのは35ドルだったという記事です。差は約28倍あります。

電卓とレシート、小銭
写真はイメージ Photo by Sasun Bughdaryan on Unsplash

計算してみると、上位プランのMaximumは月100ドル、1年で1,200ドルです。35ドルの節約のために払う額ではありません。筆者なら、まず無料のまま「探すだけ」を頼んで、どれだけ時間が浮くかを見ます。

ネットの評判

評価は、はっきり割れています。

TIMEが10月22日に出した記事では、高齢の利用者がMuseを気に入っている様子が紹介されていました。82歳の女性は自分のMuseに名前を付け、通院の判断や予定の管理、旅行の計画まで任せ、Googleをほとんど見なくなったと話しています。調査会社Apptopiaの集計では、利用者の46%が46歳以上で、競合より年齢層が高いそうです。

一方で、つなぐことへの反発も出ました。Global Newsによると、FacebookマーケットプレイスでMuseが利用者の自宅住所を許可なく伝えてしまったと報じられました。ギズモードの編集者レイ・ウォン氏は、Museを削除したと伝えられています。イーロン・マスク氏も、これを危険で気味が悪いと評する投稿を共有しました。

PCWorldは、まだ個人データを預ける気になれないという立場です。公開から2週間ほどでゼロデイが見つかり、macOSのアプリや端末のコマンドからMuseと接続先に不正にアクセスできたという指摘を挙げています。そのうえで、Confidential VMを待つべきだと書いています。トロント大のエブラヒム・バゲリ教授は、エージェントで多くをやろうとするほど自分のデータへのアクセスを手渡さなければならない、と指摘していました。

筆者がいちばん気になった一言

セキュリティ会社Veilantのマイケル・ストークス氏は、TIMEの記事でこう助言していました。「小さく始めること。作業に必要なアカウントだけつなぎ、終わったら切ること」(訳)。

全部つなぐことを前提にしない、という使い方です。少数派の構えに見えますが、Amazonが決済を止めたいま、米国で現実に動いているのはこちらのほうだという印象です。

まとめ

便利さが増える地点と、個人情報を渡す地点が同じ。そこがMuseの悩ましさでした。ただ、その2つを必ず同時に選ばなければならないわけではなさそうです。

あなたなら、短パンを探してもらうために、ログインまで渡しますか。

出典

一次情報は、Metaのニュースルームの発表、Metaの研究ブログ、10月21日の決算説明です。体験記と節約額の検証はTechRadar、Amazonの遮断はTechCrunchとPPC Land、利用者の様子はTIMEとGlobal News、安全面の指摘はPCWorldによります。

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