お昼は現金のみで
お願いしてます
――ある定食屋が、レジで
写真はイメージ Photo by Takafumi Yamashita on Unsplash
「ランチは現金のみ」は規約違反? 手数料と利益率を計算してみた
ランチのレジで「すみません、お昼は現金のみで」と言われたことはないでしょうか。この「ランチは現金のみ」をめぐる議論が、SNSで広がっています。
きっかけは、尾道の「じん」(@onomichi_jinn)さんの投稿でした。ランチタイムだけ現金のみにするのは、決済会社との加盟店規約に違反する、という指摘です。まとめサイトのTogetterには2026年10月27日付でまとめが作られ、はてなブックマークは89件付いています(同日時点)。
規約の文面に照らせば、この指摘はそのとおりです。ただ筆者が気になったのは、投稿者自身も認めていた「薄利のランチで手数料を取られたくない」という店側の事情のほうでした。その薄利とは、数字にするといくらなのか。公表されている料率と公的な統計を並べて、計算してみます。
「ランチは現金のみ」は、何の規約に引っかかるのか
まず、根拠になっている条文です。JCB加盟店規約の第11条2項には、こうあります。
「加盟店は、有効なカードを提示した会員に対し信用販売を拒絶し、または現金払いや他社の発行するクレジットカードその他の決済手段の利用を求めてはならないものとします」
同じ条文は、現金払いの客と異なる金額を請求することや、規約に定める以外の制限を設けることも禁じています。時間帯で区切る「ランチタイムは現金のみ」は、この「制限」に当たるという読み方になります。
「現金払いの人だけ割引」という逆向きのやり方では、ブランドの見解が分かれています。オトナンサーの取材(2023年5月7日)に対し、JCBは、「現金払いに限り、値引き」は「決済手段で異なる金額を請求」に該当するため、加盟店規約の違反事例と判断することがある、と回答しました。一方のVisaは、法令に反しない限り、現金利用者に割引を行うことを制限していないとしています。
ポイントの付与は、また別扱いです。JCBは、店独自の会員組織に入っている客へのポイントサービスであれば問題にならないとしています。元の投稿でも、現金の人にスタンプを押すのは違反ではない可能性がある、と触れられていました。同じ「現金を優遇する」でも、値引きとポイントで線が引かれているわけです。
1,000円のランチ、手数料を計算してみた
では、店が払う手数料はいくらなのか。公式サイトで公表されている料率を並べます。
飲食店で広く使われているAirペイは、クレジットカードと電子マネーが3.24%。交通系電子マネーとPayPayなどのQRコード決済は2.95%(税込3.24%)です。Squareは対面決済が「2.5%〜」。PayPayと直接契約した場合は1.98%、マイストア ライトプランに加入すると1.60%(いずれも税別)となっています。
1,000円のランチに当てはめます。Airペイのクレジットカードなら32円。PayPayの直接契約なら、19円から16円。同じ一食でも、どの手段で払われるかで倍近く変わる計算です。
この32円は、利益に対してどれくらいなのか。中小企業庁の中小企業実態基本調査(令和6年度決算実績)によると、宿泊業・飲食サービス業の営業利益率は2.9%でした。売上1,000円につき、手元に残る営業利益は29円ということになります。
利益29円に対して、手数料32円。率で見ると、営業利益率より決済手数料率のほうが高い、という逆転が起きています。
念のため補足すると、この2.9%は、すでに払っている手数料を差し引いたあとの数字です。ですから「カードで払われると利益が消える」という単純な話ではありません。それでも、残る利益と同じ桁の金額が手数料として出ていくことは確かだと思いました。
負担が増えている裏づけもあります。帝国データバンクが2026年4月17日に公表した小売業「支払手数料」比率調査では、飲食店の売上高に対する支払手数料の比率が、2014年度の1.54%から2024年度は2.94%へと、ほぼ倍増しました。この支払手数料には、決済代行手数料のほかに出店費用や入出金手数料も含まれます。
ネットの評判
Togetterのまとめには、立場の違う声が並んでいます。
規約を守るべきだという側からは、実際に加盟店契約を解除された例の報告がありました。電子マネー決済で10%の手数料を取っていた店が、通報を受けて契約を解除されたという内容です。一方で元の投稿者は、解除の実例は聞いたことがない、と書いていました。
店に同情する声も目立ちます。「あまり目くじら立てる気にならない」「弱いものいじめにしかならない」といった書き込みがありました。制度そのものを変えるべきだという意見もあり、「国は手数料上乗せ禁止ルールを拒否できる法律を作るべき」「クレカは携帯と同じライフラインなので国主導で改定すべき」といった声が出ています。
抜け道の指摘もありました。昼と夜を別の法人が運営していれば契約も別になるため、問題にならない、というものです。
まとめ
「ランチは現金のみ」は、規約の文面に照らせば違反です。そこに議論の余地はあまりありません。
ただ数字を並べてみると、店が3.24%を飲み込んだときに手元に残る利益が、どれだけ薄いかも見えてきます。筆者は、張り紙を責める前に、その店がどの決済サービスと契約しているかのほうが気になりました。同じ1,000円でも、16円で済む契約と32円かかる契約があるからです。
規約を守らせるのか、制度のほうを変えるのか。どちらを選ぶかで、ランチのレジの風景は変わりそうです。
出典
JCB加盟店規約第11条2項、中小企業庁「中小企業実態基本調査」(令和6年度決算実績)、PayPay公式サイト「費用と振込サイクル」、Airペイ公式サイト、Square公式サイト「手数料」、帝国データバンク「小売業『支払手数料』比率調査」(2026年4月17日)、Togetter「飲食店での『ランチタイムは現金のみ』というのは厳密には決済代行会社との加盟店規約違反だが、薄利のランチで手数料を取られたくないのもわかる→様々な視点で議論に」、オトナンサー「クレカ使用可の店で『現金払いのみ値引き』は規約違反? ポイント倍増は? JCB&Visaに聞いた」
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