これ面接で活用されたら
エグいって

――あるユーザーが、SNSで

写真はイメージ Photo by Vika Strawberrika on Unsplash

11/6 12:59 / 発信国:日本 / 記者:工藤

慶應の「声で双極性障害を判別」研究、AI面接に使えるのか精度を調べてみた

慶應義塾大学などの研究グループが2026年11月2日、自然な会話に含まれる声の特徴から双極性障害を判別する手法を発表しました。患者61名と健常者99名の会話を解析した結果、判別の成績はAUCAUCで0.916。感度0.933、特異度0.859という数字です。

論文は11月1日(米国東部時間)、医学誌Journal of Medical Internet Researchに載りました。慶應義塾大学の岸本泰士郎教授、東京科学大学の髙橋英彦教授、静岡大学の狩野芳伸教授らの研究です。約10年かけて500名を超える人から集めた、1回30〜60分の会話が約1,300件。世界最大級の会話データベースだとしています。

一方、SNSではこの発表に「これ面接で活用されたらエグい」という声が上がり、Togetterにまとめられました。筆者が気になったのは、この温度差です。

声の何を見ているのか

プレスリリースによると、手がかりになったのは「会話の内容」ではなく「声の音響的な特徴」でした。

音声の波形が表示された画面
写真はイメージ Photo by Logan Voss on Unsplash

論文の要旨では、音響の特徴を6,373個、言語の特徴を211個取り出して比べています。統計的に意味のある差が出た特徴のうち、96〜98%が音響のほうでした。

挙げられているのは、メル周波数ケプストラム係数(声の高さや音色を数値にしたもの)、スペクトルの特性、声質の指標です。つまり、何を話したかではなく、どんな声で話したか。

ここが懸念を呼んだ理由だと筆者は読みました。話す内容は選べますが、声の質は選びにくいからです。

得意なことと、苦手なこと

ただ、数字を並べてみると、この手法は万能ではありません。

双極性障害の人と健常者を見分ける成績は、AUC0.916。かなり高い数字です。

一方、同じ人の「いまの気分の状態」を見分ける成績は下がります。うつ状態と安定した状態の比較はAUC0.760で、偶然より良いと言える水準でした。

しかし、躁・混合状態と安定した状態の比較は0.601、うつ状態と躁・混合状態の比較は0.569。どちらも統計的に意味のある差とは言えませんでした。

論文の結論は、うつ状態は部分的に見分けられるものの、気分の変化を見張る用途には限界が残るという内容です。研究グループは、独立した別の集団で検証する必要があるとも書いています。

筆者の受け止めを書くと、「病気かどうか」は0.916で当てにいけるのに、「いま調子が良いか悪いか」は0.569。治療に役立つ側より、ふるい分けに使える側の数字のほうが高い、という形になっています。

日本の採用の現場に置くとどうなるか

では、本当に面接で使えるのでしょうか。

無人の会議室と椅子
写真はイメージ Photo by Benjamin Child on Unsplash

厚生労働省は「公正な採用選考」として、就職差別につながるおそれがある14の事項を挙げています。そのうちの一つが「合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施」です。

病歴は、個人情報保護法でいう要配慮個人情報にあたり、取得には本人の同意などが必要です。制度の上では、勝手に判定してよいことになっていません。

ただ、声を解析する面接の道具は、すでに日本で動いています。TISは2026年6月12日、ワールドインテック(福岡県福岡市)に面接評価AIを導入したと発表しました。話した内容に加えて、声のトーンやスピード、抑揚、フィラーや発言の割合をデータにし、6つの観点でスコアとコメントを出す仕組みです。

TISの説明では、狙いは評価のばらつきを抑えることと、面接後の振り返り時間を15%減らすこと。病気を判定する道具ではありません。

それでも、声から人を評価する土台が先にあり、そこへ精度0.916の判別手法が並んだ。この順番が反応を呼んだのだと思います。

11月5日の時点で、慶應義塾大学のプレスリリースに、面接などでの利用に触れた記述は見当たりません。

ネットの評判

はてなブックマークでは、慶應義塾大学のプレスリリースに36件のブックマークが付いていました(11月5日時点)。

評価する側では、診断の助けになるという見方が出ています。双極性障害は初診でうつ病と見分けるのが難しく、正しい診断までに時間がかかることがあります。「高精度で判別できれば、多くの方が救われる」という声がありました。

懸念する側の声も、はっきり出ています。「医療機関における診断補助の一つとして有望そうだけど、一般に広く公開されたら問題が生じそうな技術ね。例えば、面接受験者やネット配信者の音声を勝手に解析して、本人の同意なしに精神疾患の有無を推測など。」というコメントがありました。

Togetterのまとめでは「これ面接で活用されたらエグい」「この技術って就活の面接で使われたらかなり凶悪なことになりませんかね」といった声が並びます。「話し方の分析で完璧な発達障害者排除が可能になる」という書き込みもありました。

制度のほうを問う声もあります。「身体障害と同様に機械的な判別が可能になれば、障害年金を自動支給しなければならないが、その制度整備は進んでいるのか?」というコメントです。技術を止めるのではなく、受け皿を作れという立場です。

まとめ

数字を並べてみると、この手法がいちばん得意なのは「病気かどうかの見分け」で、いちばん苦手なのは「いまの気分の状態の見分け」でした。

治療に近い使い方より、ふるい分けに近い使い方のほうが、数字の上では成り立ってしまう。懸念が出たのは、そこだと思いました。

研究グループ自身も、別の集団での検証が必要だとしています。使ってよい場所の線引きは、精度の話とは別に、人が決める話です。

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