好きになりたいのに、
なれないんだよね

――ある支持者が、同じ党の候補に

写真はイメージ Photo by Jesse Paul on Unsplash

11/3 19:10 / 発信国:アメリカ / 記者:宮村

ユダヤ系1,000人が署名 「イスラエル批判の候補に入れる」

アメリカの中間選挙は11月3日。ミシガン州の上院議員選挙に民主党から出ているのは、アブドゥル・エルサイードという医師だ。イスラム教徒で、勝てばアメリカで初のイスラム教徒の上院議員になる。公約の一つが、イスラエルへの軍事支援を止めること。「イスラエル支持は党を問わず当たり前」と言われてきた国で、これが通るのか?

10月25日、トランプ大統領はミシガン州ポートヒューロンの集会で、この候補についてこう述べた。「私がここにいるのは、ジハード主義者でムスリム同胞団のメンバーがアメリカの上院議員になるのを阻止するためだ」。アメリカの事実確認サイト・ポリティファクトは、この主張を調べて根拠がないと判定している。エルサイードは暴力を呼びかけたことがなく、ムスリム同胞団とのつながりも否定しているからだ。

48億円を使って、それでも落とせなかった

この選挙にいちばんお金を出したのは、トランプ大統領ではない。AIPACという団体だ。TBSの報道特集は「全米最強のロビー団体」と紹介している。

数字が大きい。AIPACと関連する政治団体は、今回の中間選挙に合わせて1億430万ドル(約164億円)を使った。うち3,060万ドル(約48億円)は、8月のミシガン州の予備選でエルサイードを落とすために投じた。一つの選挙への支出としては、この団体の過去最高額だ。

それで、どうなったか。8月5日、エルサイードは予備選に勝った。

背景には、世論の動きがある。ギャラップが2月に1,001人に聞いた調査では、パレスチナ側に共感する人が41%、イスラエル側が36%だった。この質問を毎年始めた2001年以降、イスラエルが上に来なかったのは初めてだ。18〜34歳では53%対23%と、差がもっと開く。

「投票はバレンタインのカードではない」

では、だれが割れているのか。ユダヤ系アメリカ人自身だ。

シナゴーグの外観
写真はイメージ Photo by Nikolai Kolosov on Unsplash

9月、ミシガン州のユダヤ系有権者が、エルサイードに投票すると宣言する公開書簡を出した。署名は1,000人を超え、州内94の市町村に広がった。書簡にはこうある。「投票はバレンタインのカードではない。戦略的な一手だ」。署名した人たちは、イスラエルへの向き合い方を含め、候補者と意見が合わない点があることも、同じ書簡で認めている。

事務を担うのは、進歩派のユダヤ系団体ベンド・ジ・アーク。代表は「AIPACをユダヤ系の団体のように語るのはやめてほしい。あれは違う」と話す。ミシガン民主党のユダヤ系議員団の議長は、入れる理由を「包み隠さず話す候補者がいる国のほうが、ユダヤ人として安全だと感じる」と説明した。

世代差もある。AP通信とNORCが6月にユダヤ系1,022人を含む3,040人に聞いた調査では、45歳未満のユダヤ教徒でイスラエル支持が自分の信仰にとって「とても大事」と答えたのは4割ほど。45歳以上では半分ほどだった。

もちろん逆の声もある。共和党のマイク・ロジャースに入れると宣言した書簡には、8月からの約1か月で478人が署名した。ラビやカンターら16人は、エルサイードが支持を得るための条件を並べた別の手紙を出している。ミシガン州のユダヤ人の安全と、ユダヤ国家としてのイスラエルが存在する権利を認めること。10月末の時点で、候補者からの返事はない。ユダヤ系はミシガン州の人口の1.5%ほどだが、接戦なら結果を動かす。

ネットの評判

エルサイードは、ロシュ・ハシャナをユダヤ系の女性2人と過ごす動画を公開した。XとTikTokで数千の反応が付いたが、反発も出た。民主党の州議員は「正直、こういう使われ方は嫌いだ」と批判した。別のラビは、あの動画はユダヤ系に向けたものではなく、彼に偏見があるのではと心配する非ユダヤ系に向けたものだ、と指摘している。

エルサイードを応援する政治団体が「食料品が高いのはイスラエル支援のせいだ」という内容のテレビCMを流し、オンラインで批判を浴びた。予備選で争ったヘイリー・スティーブンス下院議員はニューヨーク・タイムズに、食料品の値段がユダヤ人とユダヤ国家のせいだなどとは言わない、と語った。エルサイードが内容を非難しなかったため、2人で開くはずだった集会は中止になった。

地元の広報の専門家は、この選挙でいちばん目立つのは、ユダヤ系コミュニティの中でSNSのやりとりが荒れていることだと話している。友人や家族の関係が壊れた、誇りを持っていた役職を降りた、という話も出ている。

AIPACと関連する政治団体は、献金者の届け出の期限を過ぎてから、エルサイードを攻撃する広告にさらに1,270万ドル(約20億円)を使った。相手は、ユダヤ系1,000人が「この人に入れる」と署名した候補だ。

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