このカメラ、付けたまま
仕事してもらえる?

――ある工場の上司が、ミシンを踏む人に

写真はイメージ Photo by Luba Glazunova on Unsplash

10/26 13:03 / 発信国:インド / 記者:工藤

頭にカメラで8時間、約780円 インドの職人が撮る「ロボットの教材」

インドのバンガロールで理容師をしているモハメド・アシムさん(22)は、頭にカメラを付けて髪を切っている。映るのは自分の手と指だけで、客の顔はぼかされる。1日5〜6時間、そうやって撮った映像が、ロボットの教材として売られていく。で、いくらになるんだろう?

8時間撮って、約780円

映像を集めるラシュダン・テクノロジーズは、8〜10時間分の作業映像に5〜10ドル(約780〜1,570円)を払う。安いほうだと、1時間あたり80円ほどだ。共同創業者でCEOのシャヒル・バイグさんはBBCに、顔ではなく手を撮り、名前や連絡先は発注元に渡さないと話した。

頭に固定する小型カメラ
写真はイメージ Photo by Samsung Memory on Unsplash

なぜ、こんな映像にお金が付くのか。文章や絵を作るAIと違って、フィジカルAIには、人が体を動かしている映像が要る。そういう記録は、ネット上に落ちていない。ヒューミン・ラボズの創業者マニシュ・アガルワルさんはBBCにそう話した。だから、撮りに行くしかない。ヒューミン・ラボズには、ラテンアメリカと東南アジアに9万6千人の撮影協力者がいるという。

撮られているのは、工場や農作業から、料理や洗濯、陶芸、縫製、ろうそく作りまで。理科の先生のジョリー・アリフルさんは7か月、家事を1日3〜5時間撮り、時給2〜3ドル(約310〜470円)をもらっている。繊維の仕事を10年続けたモハメド・アルマンさんの言い方は直球だった。「これは生き延びるためだ。ビハールに家族がいて、送る1ルピーが大事なんだ」

もらったのは、マンゴージュース1本

ここまでは、お金を受け取って自分で撮っている人の話。ところが同じインドで、まるで違う撮り方もあった。

インドのScrollとThe Wireが報じたところでは、2026年3月末から4月初め、デリー近郊のパール・アパレルの工場2か所で、働く人たちが白いヘッドカメラを渡され、仕事中に付けるよう言われた。ザラやギャップに服を納めるパール・グローバル・インダストリーズの工場だ。同意は口頭でも書面でも求められていない、と働く人たちはThe Wireに話している。追加の金も出ていない。渡されたのは、ぬるくなったマンゴージュース1本だった。

カメラを出していたのはエゴラボ(Egolab.AI)。2026年1月に、マハラシュトラ州の19歳と18歳が作った会社だ。「インド最大の一人称視点データ集約会社」と自称し、工場で働く人の一人称視点の映像を集める。インドのデジタル個人データ保護法は守っているとScrollに説明した。工場の月給は2万〜3万ルピー(約3万3千〜5万円)。月曜から土曜まで、1日12時間だという。

ネットの評判

4月、ヘッドカメラを付けた工場労働者の映像がネットで広まった。IBTimes UKによると、インスタグラムのコメント欄には「ディストピアの悪夢だ」と書く人がいて、断ったらどうなるのかという疑問も出た。Redditでは意見が割れ、同意を取ったのかと問う声と、撮るだけで収入が増えるならいいという声の両方があった。

カメラを外し続けた2週間

タタ社会科学研究所のビノ・ポール教授はBBCに「自分が何に参加したのかに働く人が気づくころには、事態は進んでしまっているかもしれない」と話した。バイグさんによると、発注元の要望も変わってきた。1台だったカメラが、頭の周りに4〜6台。同意を取るのは「まったく違う話で、もっと難しい」。

ただ、デリー近郊の工場では、働く人たちが黙って付けてはいなかった。The Wireによると、アンクシュ・ヤダブさんたちはカメラをこじ開け、メモリーカードを自分のスマホに差して、何が映っているのかを確かめた。付けろと言われても、何度も外す人が続いた。ある中間管理職は「8時間ずっと付けていた人は、1人もいなかった」と話している。

この撮影は、2週間で静かに打ち切られた。

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