一本打てば、がんが
さびて死ぬんでしょ?
――ある家族が、ニュースを見て
写真はイメージ Photo by Alex Quezada on Unsplash
中国の「がん細胞をさびさせる」注射、84.2%は治った率ではない
中国の病院チームが、がんの腫瘍に鉄を直接注射する試験の結果を出した。10月1日、医学誌「Signal Transduction and Targeted Therapy」に載った論文だ。注射を受けたのは19人。公表された数字のうち、中国のSNSでいちばん広まったのが「病勢制御率84.2%」だった。
中国の報道は、この仕組みを「生锈」(原文ママ、さびる)と言い換えて伝えた。がん細胞を内側からさびさせて殺す注射、という話として広がっていった。
ただ、84.2%は「治った人の割合」ではない。
84.2%は、19人のうち16人のこと
論文によると、注射を受けた19人のうち、腫瘍が一定以上小さくなった人は2人。小さくはならなかったが、大きくもならずにとどまった人が14人いた。この2人と14人を足した16人を、19人で割った数字が84.2%だ。これを病勢制御率と呼ぶ。
腫瘍が小さくなった人の割合は、別の数字で出ている。全奏効率は10.5%。19人のうち2人だ。
ここが、ややこしい。19人は、学校のクラスの半分くらいの人数だ。1人増えたり減ったりするだけで、割合は5ポイント以上動く。実際、この試験に入った人のうち「ステージ4」だった人の割合も、偶然ぴったり84.2%、つまり16人だった。
そして、腫瘍の様子をみていた期間は、最短で1か月。何か月効き続けたのかという数字は、論文に出ていない。
なぜ、鉄を腫瘍に打つのか
使われたのはCNSI-Feという薬だ。炭素のナノ粒子に、二価の鉄をくっつけたもの。超音波かCTで腫瘍の位置をみながら、針を刺して腫瘍の中に直接入れる。21日を1区切りにして、19人のうち63.2%は1回だけ、36.8%は2回受けた。
鉄が狙うのは、細胞を包む膜の脂だ。鉄で脂を酸化させて膜を壊し、細胞を死なせる。この死に方をフェロトーシス(鉄死亡)という。報道が「さびる」と言い換えたのは、この酸化のことだ。論文は、フェロトーシスを起こす薬を人に使った初めての試験だと書いている。
大丈夫なのか。第1相試験の本来の目的は、そこを調べることだ。量は30mgから150mgまで5段階で増やしたが、「これ以上は増やせない」という上限には届かなかった。上限の目安になる重い副作用が出たのは、90mgのグループの1人だけだった。ただ、軽いものを含めると、注射した場所が痛んだ人が89.5%、血圧が上がった人が52.6%、貧血になった人が47.4%。重い副作用に分類されたものは、19人のうち14人、73.7%に出ている。試験の間に2人が亡くなったが、どちらもがんそのものの進行によるもので、論文は治療とは無関係、またはおそらく無関係と書いている。
19人は全員、すでに2つ以上の治療を受けたあとの患者だった。63.2%は4つ以上を受けていた。ほかに打つ手が少ない人たちで、腫瘍が止まっただけでも意味はある。ただ、それは「効いた」と言い切る根拠にはならない。論文自身も、比べる相手のいない単群の試験であること、患者の病気の種類がばらばらであることを、限界として挙げている。
ネットの評判
中国のSNSでは、期待と警戒が同時に出た。新浪微博(ウェイボー)では、がんで苦しむ家族がいるから、この知らせには特に心が動いた、という書き込みが目立った。一方で、まだ第1相が終わったばかりで、普通の治療になるまでは長い道だという声や、「一本打てば」という言い方には警戒がいるという声も並んだ。海外向けの中国語の掲示板では、効き目が確かめられるまでには何年もかかるという疑いと、第2相の成功に期待する声が、ほぼ半分に分かれていた。中国の記事の中には、見出しで「普及まであとどれくらいか」と問いかけているものもあった。
値段は、まだ決まっていない。使えるようになるまでには、第2相、第3相の試験と、審査が残っている。放射線と組み合わせる第2相の試験は、すでに始まったと中国の報道は伝えた。論文の結論も、「さらに第2相試験での検討を支持する」で止まっている。
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