この卵、
うちの子じゃない
――深海のウミグモに、5個
日本海溝の水深3,685mで、ウミグモに卵が5個 自分の卵ではなかった
日本海溝の水深3,685メートル。2023年9月27日に引き上げられたウミグモのメス1個体の体に、カプセルのようなものが5個くっついていた。中身は卵だった。ただし、ウミグモの卵ではない。北海道大学が10月22日に発表した。
ウミグモは、クモに似た姿の海の生き物だ。クモの仲間ではない。細長い脚で海底をゆっくり歩く。この仲間はオスが卵の世話をすることで知られていて、担卵肢という専用の脚で、メスの産んだ卵をまとめて抱えて歩く。体に卵をぶら下げて歩く生き物。もともと、歩くゆりかごなのだ。
だから体に卵が付いていること自体は、そこまで妙な話ではない。妙なのは、その卵が誰の子かだった。
産んだ親は、まだ誰も見ていない
調べたのは、北大大学院理学院の関口翔悟さんと、理学研究院の角井敬知講師。形を観察し、DNAの配列を読んで、系統をたどった。答えは、扁形動物のTrigonostomidae科。ウミグモとは縁もゆかりもない、別の動物の卵だった。ウミグモの体を産卵場所に使う扁形動物の報告は、これが世界で初めてになる。
では、その扁形動物はどんな姿なのか。分かっていない。卵嚢は5個見つかったのに、産んだ本人は1匹も採れていない。だから科より下、種の名前までは決められなかった。このほか、オスとメスの体から、卵嚢の殻と思われるものが3個見つかっている。中身はもう出ていったあとらしい。
深海の底に、硬い場所がない
なぜ、よりによってウミグモなのか。深海の底は、大部分が泥の平原と斜面だ。卵を産み付けたくても、くっつける硬い足場がない。ウミグモは硬い外骨格を持ち、泥に埋まらず、ゆっくり歩いて暮らしている。プレスリリースは、そこを好適な産卵場の理由に挙げている。
ウミグモの体を使う生き物は、ほかにもいる。浅い海のヒル、南極の巻貝。同じ2人を含むグループは2025年にも、日本海溝・千島海溝の水深約2,000メートルで、ウミグモの体にウミシダが乗っていた例を報告した。
今回、見出しになったのは「日本初記録のウミグモ」のほうだ。学名はAscorhynchus mariae、新しい標準和名はヘビジタトックリウミグモ。これまでに報告された標本はもっと浅い場所のもので、今回が本種の最深記録にもなった。ただ、研究者が論文の題名の先頭に置いた言葉は「Abyssal cradle」、深海のゆりかごだった。
ウミグモが得をしているのか、ただ乗りされているのかは、発表に書かれていない。はっきりしているのは、Trigonostomidae科がそもそも寄生する仲間ではないことだ。宿主にされたわけではない。泥の海の底で、硬くて埋まらない足場として選ばれた。それだけの話で、それが世界初だった。
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