撮影費0円の完璧な広告、出した人がいない

2026年10月17日、パリの暴動の映像

11/3 19:02 / 発信国:フランス / 記者:宮村

割れなかったパリの窓、中国ガラス会社の広告と絶賛 その広告が見つからない

2026年10月17日、パリ。ルイ・ヴィトンの店の窓が、蹴られ、金属の棒で叩かれ、ショッピングカートをぶつけられ、れんがを投げられた。窓はクモの巣のようにひびだらけになったが、貫通しなかった。この映像が、ある会社の広告として世界でほめられた。撮影費、0円。

広告主とされたのは、中国河南省平頂山の恒信丰特種ガラス。銀行や宝石店に入れる防犯・防弾・防爆の合わせガラスを作る会社だ。Xでは「中国のガラス会社が、フランスの暴動を無料の広告に変えた」(訳)という投稿が広まった。撮影費をかけずにバズった名広告、という扱いで、デイリー・メールやCNBCも報じた。ニュース動画にもなった。

たどると、会社の名前が消える

ところが、その広告が見つからない。中国のSNSを調べているManya Koetseさんが、こう書いている。「バイラル広告だった証拠はなく、中国で最初に話題になった証拠もない」。たどれる映像はすべて、10月26日にWeiboのあるブロガーが上げた投稿に行き着く。そこに恒信丰の名前はない。ブロガーが書いたのは、ヨーロッパで防弾ガラスの需要は伸びる、という趣旨の一言だけだった。「中国でバズった」という説明の出どころは、モスクワを拠点とするXのアカウントだという。

映像のガラスが恒信丰の製品だ、という確認もない。IBタイムズは、場所も建物もメーカーも独自には確かめられていないと書いた。ガジェットレビューは、会社が中間膜の厚みや試験の認証を公開していないと指摘している。では、会社自身はどう受け止めたのか。探したかぎり、恒信丰のコメントは見つからなかった。

「割れない」のではなく、設計どおり

ひびだらけで穴があかないのも、驚くことではない。大阪府警の説明では、合わせガラスは2枚のガラスの間に樹脂の中間膜を挟んで圧着したものだ。割れても、破片がほとんど飛び散らない。中間膜を2倍以上に厚くしたのが防犯ガラスで、狙いは「ガラス破りに時間が掛かる」ことだ。割れないガラスではなく、割れたまま持ちこたえるガラスである。

樹脂の膜を挟んだ合わせガラスの断面
写真はイメージ Photo by Max Harlynking on Unsplash

笑われている側にも触れておく。10月17日のデモは、生活費の高さや、教育を含む公共サービスの後退への抗議だった。労組のCGTは全国で50万人が参加したと発表した。サンテティエンヌでは、警察の制圧用の手りゅう弾で手を失った参加者がいる。窓の前の数十秒だけでは、この日の大きさは分からない。

撮影費0円の広告としてほめられた会社が、その広告について何か話した記録は、まだ見つかっていない。確かなのは、あの窓が貫通しなかったことだけだ。

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