穴が少ないのは
ハズレを引いたのかと
――ある買い物客が、チーズ売り場で
写真はイメージ 撮影 Ankara/CC BY-SA 3.0(ウィキメディア・コモンズ)
エメンタールの「穴」と干し草パウダー、スイスの判決と日本の表示を調べてみた
スイスのエメンタールチーズといえば、大きな穴です。その穴が、ここ10〜15年で小さくなったり、消えたりしています。この原因を2015年、スイスの農業研究機関アグロスコープが突き止めました。穴の「核」になっていたのは、搾乳のときにミルクへ落ち込んでいた、目に見えないほど細かい干し草の粒でした。
そして2025年4月2日、スイス連邦行政裁判所は、エメンタールAOPの製造で「干し草の花の粉末」を使うことを認める判決を出しています(事件番号B-6947/2023)。穴は、あとから足して取り戻すものになったわけです。
今回筆者が確かめたのは、この話の裏付けと、「日本で売られているエメンタールはどうなのか」という点です。
穴の正体は、搾乳バケツに落ちた干し草だった
アグロスコープの説明では、昔の牛舎ではふたのないバケツで搾乳していたため、空気中の干し草のかけらがミルクに入り込んでいました。発酵で出た炭酸ガスがその粒を足場にしてふくらみ、あの穴になります。密閉式の搾乳機が広まると、干し草の粒はほぼ完全になくなりました。
研究チームは、熟成中のチーズの中身をCTで撮り、穴のでき方を追いました。ミルクに加える干し草の粉の量を変えると、穴の数を加減できることも確かめています。物理分析部門のドミニク・グギスベルク氏が中心になった研究です。
ただ、エメンタールAOPは原産地呼称の仕様書で作り方が細かく決まっています。そこに干し草の花の粉末が載っていなかったため、スイスの生産者は使えませんでした。現地の報道によると、フランス製やドイツ製のエメンタールでは、すでに同じ手が使われていたそうです。
数字で見ると、ミルク1トンに5〜10ミリグラム
アグロスコープが示した目安は、ミルク1トンあたり干し草の花の粉末5〜10ミリグラム。仕様書は量を定めず、作り手に幅を残しました。
仕様書が求める穴は「規則的で、きれいな、丸いかやや楕円の穴が、大半は2〜4センチ」。そこに届かないと、割れや裂け目が出るという指摘もあります。
裁判所は、粉末が「もともとあった、伝統的な特徴」を取り戻すものだと述べました。エメンタールAOPはすでにプロピオン酸菌を助剤として使っているのだから、粉末を1つ足すのは「不相応な介入ではない」と判断しました。「十分に穴ができているところでは、不要な干し草の花の粉末はほとんど使われないだろう」とも書いています。反対していた連邦農業局は、粉末を認めれば原産地呼称の製品が工業化され、本物らしさが弱まると主張していました。2025年6月の業界紙の報道では、同局はこの判決を上訴しない方針と伝えられています。
日本で売られているエメンタールを調べてみた
では、日本の売り場で見分けられるのでしょうか。筆者が公開情報を当たった結果は、「無理」でした。
スイスチーズ公式の日本語ページは、エメンタールAOPを「添加物や遺伝子操作添加物は禁止」と説明しています。矛盾しているようで、していません。干し草の花の粉末は、スイスでは添加物ではなく製造の助剤として扱われているからです。
ある輸入チーズ専門店の通販サイトでは、スイス産エメンタールの原材料名が「生乳、食塩」の2つだけ。価格はサイトの表示で100グラム1,099円でした。日本の制度でも、加工助剤は添加物の表示を省略できると厚生労働省の資料に示されています。つまり、使っていても表示には出ません。個々の輸入品で使われているかどうかは、公表されていません。
なお、同じ日本語ページは、穴の大きさを「チェリーサイズからナッツサイズまで」と書いています。スイスの仕様書の「2〜4センチ」とは、ずいぶん印象が違います。
ネットの評判
この話はTogetterにまとめられ、はてなブックマークの「暮らし」で上位に入りました。目立ったのは「トムとジェリーのチーズだ」という連想と、「昔のイメージからすると穴少な目」「穴が開いてないのでハズレの部分を引いてしまったんだと思ってた」という、売り場での実感でした。
受け止めは割れています。「人工的に乳酸菌をぶち込む時点でそうした変化は始まっていた」と、今さら驚くことではないという声があります。こんにゃくを黒くするために海藻の粉を混ぜる例と並べて、人の手で見た目を寄せることをどう考えるかという話も出ていました。失敗が重なる仕組みを説明する「スイスチーズモデル」のたとえが使いにくくなる、という書き込みもありました。
まとめ
穴が減った理由は衛生管理、戻し方は干し草の花の粉末、量はミルク1トンに5〜10ミリグラム。ここまでは公式の情報で確かめられました。確かめられなかったのは、いま目の前のエメンタールに使われているかどうかです。表示では分からない、というのが今回の答えです。
出典
エメンタール・スイス(Emmentaler Switzerland)公式発表「Heublumenpulver」(2025年4月11日)
スイス連邦行政裁判所の判決に関する報道(SRF、Schweizer Bauer、Bauernzeitung、foodaktuell、steigerlegal、2025年4月〜6月)
アグロスコープの研究に関する報道(phys.org、2015年5月/Beobachter)
スイスチーズ公式日本語サイト「エメンタールAOP」
厚生労働省「食品添加物の表示について」
輸入チーズ専門店の商品ページ(スイス産エメンタール)
Togetter「スイスの有名チーズ『エメンタール』の穴が現代の衛生管理によって消え始めた→穴があったほうがいいので干し草パウダーが添加され始めた話」
残ったのは、高い席ではなかった
Number_i札幌ドームの空席報道
何もない田舎の風景
それでも300人が見ている
――岩手・遠野、田んぼの神社の24時間配信
そのメモリ、ほとんど
使ってないよね?
――32GBのメモリは、半月で13.7%上がった
- Emmentaler Switzerland公式「Heublumenpulver: Bundesverwaltungsgericht heisst die Beschwerde von Emmentaler Switzerland gut」
- 厚生労働省「食品添加物の表示について」
- スイスチーズ公式日本語サイト「エメンタールAOP」
- SRF「Schweizer Käse: Löcher im Emmentaler werden zukünftig künstlich herbeigeführt」
- Der Schweizer Bauer「Sieg für Emmentaler AOP: Gericht erlaubt Heublumenpulver」
- Bauernzeitung「So begründet das Gericht, dass neu Heublumenpulver in den Emmentaler darf」
- Bauernzeitung「Emmentaler AOP steckt in einer Lochkrise」
- steigerlegal.ch「Emmentaler: Gericht erlaubt Massnahmen für genügend grosse Löcher im Käse」
- foodaktuell「Emmentaler: BLW schluckt Heublumenpulver-Urteil」
- phys.org「A century on, experts crack mystery of holes in Swiss cheese」
- Beobachter「Emmentaler retten: Forscher bringen die Löcher mit Heustaub zurück」
- チーズ専門店の商品ページ「スイス産 エメンタール」
- Togetter「スイスの有名チーズ「エメンタール」の穴が現代の衛生管理によって消え始めた→穴があったほうがいいので干し草パウダーが添加され始めた話」