メールの返信は、
着いてからでよくない?

――ある運転手が、車のAIに

写真はイメージ Photo by Arteum.ro on Unsplash

10/19 15:38 / 発信国:アメリカ / 記者:工藤

テスラのGrokが1秒未満で返事 それでも運転中は黙っててほしい

車の中で「コーヒーを頼んでおいて」と言うと、1秒かからずに返事が来る。xAIが10月14日に出した音声AI「Grok Voice 3.0」は、テスラの車内で1日に数百万件の会話をさばいているそうだ。便利そうだが、その会話はどこへ行くんだろう。

1秒で返事、1分で約13円

Grok Voice 3.0は、声を文字に直さず、音声のまま聞いて音声で返す。だから応答が1秒を切る。調査会社Artificial Analysisの10月13日付の集計では、Speech-to-Speech Indexが86.9で1位だった。INTERNET Watchによると、25以上の言語を扱い、騒がしい場所やアクセントのある話し方にも対応する。

値段は1分0.08ドル(約13円)、1時間なら4.80ドル(約760円)で、前のモデルから据え置きだ。ただ、この金額を払うのはAPIを使う開発者のほうで、運転している人ではない。

テスラの車内では、予定の確認やメールの返信、コーヒーの注文、ディナーの予約まで引き受ける。xAIはこれを「完全にハンズフリーで」と書いている。Starlinkのコールセンターでも1日約2万件を受け、約70%を人なしで片づけているそうだ。

手は空いても、頭は空かない

気になるのは、メールの返信のほうだ。AAA交通安全財団とユタ大学が2015年に出した研究が、その作業を名指ししている。

ハンドルと前方の道路
写真はイメージ Photo by Peter Amende on Unsplash

声で電話をかけたり文字を送ったりしたあと、危ないほど気が散った状態が最長27秒続いた。時速25マイル(約40キロ)なら、その間にアメリカンフットボールの競技場3つ分ほど進む。音楽を変えるような指示は負荷が軽いが、届いたメールに返事を作らせると点数が跳ね上がった。AAAの言い方は「hands-free is not risk free」。手が空いていても、危なくないわけではない。

これは11年前の研究で、Grokを調べたものではない。それでも、xAIが売りにする「運転しながらメールに返信」は、この研究がいちばん危ないとした作業だ。

録音の行き先は、確かめきれなかった。xAIの発表ページには、車内の音声をどこに預け、どれだけ残すのかの説明がない。安全の話も出てこない。テスラとxAIのプライバシー方針は、公式ページが開けず原文を読めなかった。この件を追ったブログ「lounges」は、テスラ側の「Conversations remain anonymous to Tesla」(会話はテスラに対して匿名のままだ)という一文を引いた。そのうえで、テスラに匿名なのと、どこにも残らないのとは別の話だと書いている。

ネットの評判

Xでは数字に驚く声が目立つ。「音声AIのスタートアップを、また全部潰したのでは」という投稿が回っている。

一方、日本のテスラ所有者が集まる掲示板「テスカス」では、速さの話がほとんど出てこない。多いのは日本語の不満で、「ほとんどの地名を違う呼び方をします」という書き込みがある。会話が毎回ゼロに戻ることへの不満も強く、「毎回初対面のような反応になります」という声があった。会話データが米国で処理されるならEU諸国は黙っていない、と書く人もいた。運転中の良さを挙げる声は、「眠気が覚めました」の一言だった。

2025年7月、Grokがテスラ車に入ったときのリリースノートには、こう書かれていた。「Grok is currently in Beta & does not issue commands to your car」。ベータ版だから、車に指示は出さない、と。それから1年3か月で、同じ車の中で、AIはメールの返信を書いている。

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