コピーのコピーは、
何回まで大丈夫?
――山梨大学の研究チームが、約20年かけて確かめた
写真はイメージ Photo by Centre for Ageing Better on Unsplash
クローンのクローンは58世代で絶えた AIの「モデル崩壊」と比べてみた
コピー機でコピーしたものを、またコピーする。これを生き物でやったら、何回繰り返せるのか。山梨大学の若山照彦教授らが、マウスで約20年かけて確かめました。
答えは58世代でした。1匹の雌マウスから始めたクローンのクローンづくりは、3万回を超える試行の末、58世代目で途絶えています。
筆者がこの話で思い出したのは、AIのことでした。AIが作った文章や画像を、またAIに学ばせる。それを繰り返すと何が起きるかは、すでに論文がいくつも出ています。今回は、この2つを並べて比べてみます。
20年で3万回、最後は58世代目
研究は2026年3月、Nature Communicationsに載りました。論文の題は「Limitations of serial cloning in mammals」(哺乳類の連続クローニングの限界)です。
やり方は体細胞核移植です。クローンマウスから卵丘細胞(卵のまわりの細胞)を取り、別のマウスの、核を抜いた卵子に移す。これを約3カ月ごとに繰り返しました。2005年から20年で、生まれたクローンは1206匹、すべて雌です。
体細胞核移植
出生率は第1世代が7.4%。そこから上がっていき、26世代目に15.5%でピークを迎えます。技術が上がった分、生まれる割合も上がったわけです。問題は27世代目からでした。ここから出生率が下がり始め、58世代目には0.6%まで落ちます。58世代目に生まれた5匹は、翌日に死にました。
筆者が一番意外だったのは、ここです。論文の要旨には、再クローンされたマウスは見た目も正常で、寿命も正常だったと書かれています。外から見ているかぎり、劣化は分からなかったのです。
削れていたのはDNAの中でした。世代ごとに、大きな構造の変異と、命に関わる変異が積み上がっていたと論文は書いています。突然変異の頻度は、自然交配で生まれたマウスのおよそ3倍でした。若山教授は、この変異が卵子に核を移植する過程かその後に生じたとみています。
論文の締め方が効きます。最終世代に近い雌を雄と交配させると、ほとんどの胚はだめになりましたが、ごく一部は減数分裂と受精を経て正常化し、生まれてきました。哺乳類は、クローンでたまった異常を消すために、無性生殖ではなく有性生殖に頼っている――そう示唆される、という結論です。
AIは文章で9世代、画像で10世代
ここからAIの話です。
2024年、Natureに「AI models collapse when trained on recursively generated data」という論文が載りました。著者はIlia Shumailovらで、2023年の査読前論文「The Curse of Recursion」(再帰の呪い)が元になっています。AIが作ったデータを次のAIの学習に使い続けると、元のデータ分布の〝裾〟が消え、後戻りできない欠陥が生まれる。これを「モデル崩壊」と呼びます。
データ分布の裾
では、何世代で崩れるのか。文章のほうは、中世の建築についての記述を入り口にして世代を重ねたところ、9世代目の出力はジャックウサギ(野ウサギ)の一覧になっていたと報じられています。
画像にも数字があります。ICLR 2024で発表された「Self-Consuming Generative Models Go MAD」は、画像生成AIに自分の出力を食べさせ続けた研究です。顔写真で学習させたStyleGAN-2では、世代が進むほど格子状のノイズが強まり、論文は1、3、5、7、9世代の画像を並べて見せています。手書き数字を拡散モデルで回したほうは、10世代目には生成された画像がほとんど判読できなくなった、と書かれていました。
ただ、話はここで終わりません。同じ2024年に「Is Model Collapse Inevitable?」(モデル崩壊は避けられないのか)という論文も出ています。こちらの主張は、崩れるのは本物のデータを合成データで置き換えたときだけ、というもの。本物を残したまま合成データを足していく形なら、言語モデルでも、分子の形を作る拡散モデルでも、画像のVAEでも崩壊は起きなかったと報告されています。
マウスの結論と形が似ています。外から新しいものを入れ続けるかどうか。そこが分かれ目になっている、という印象です。
同じことは、手元でも試せます
手順は簡単です。画像生成AIに1枚の画像を渡し、同じものを描くよう頼む。出てきた画像を、また同じ指示で渡す。これを1世代と数えて、10回繰り返します。文章なら、要約させた文をまた要約させる形で、9世代まで回してみる。論文のような大きな学習はできませんが、出力を入力に戻す形は同じです。
【感想①:画像を10世代まで回して、色・輪郭・細かい模様のどこから変わったか】
【感想②:文章を9世代まで回して、言葉づかい・固有名詞・同じ言い回しの繰り返しがどう出たか】
「バナナは数千年クローンなのに」への答え
この話がネットで広まったとき、バナナを持ち出す声が出ました。食用バナナはほぼクローンのまま数千年続いているのに、なぜ実験のクローンは58世代で絶えたのか、という疑問です。
違いは2つあります。1つは増やし方です。食用バナナは種ができないので、株元から出る吸芽を植え替える栄養繁殖で増やします。親株の一部を育てているだけで、核を卵子に入れ直す操作はありません。マウスのほうは、その核移植の過程かその後に変異が生じたとみられています。
もう1つは、バナナも安泰ではない、ということです。いま流通しているバナナは、ほぼキャベンディッシュという一つの品種です。遺伝子が同じだと、同じ病気に極端に弱くなります。新パナマ病(TR4)は1990年代初頭に台湾の土壌から見つかり、2013年に中東とアフリカ、2019年8月にコロンビアで確認されました。コロンビアの植物病理学者フェルナンド・ガルシア=バスティダス氏は「TR4を根絶するのはほぼ不可能です」と話しています。
クローンのまま数千年もったのは事実で、絶え方が違うだけではないか。筆者はそう受け取りました。
ネットの評判
はてなブックマークでは、この話題を伝えた記事に295件のブックマークが付いていました(2026年10月20日時点)。
多かったのは、淘汰圧の話です。あるユーザーは「性行為からの受胎のプロセスの方がそりゃセレクション厳しいもんなあ」と書いていました。実験室では、弱い個体が自然に減る力が働かないのではないか、という見方です。
淘汰圧
一方で、実験の設計への疑問もありました。「複数系統作って並列しなかったのかな?」という書き込みです。1本の系統だけでは、たまたま運が悪かった場合と区別できない、という指摘です。
若山教授の「コピー機で絵をコピーすると、わずかに絵の画質が悪くなります」という説明が分かりやすい、との声も目立ちました。
まとめ
「AIはデータを増やすほど賢くなる」という見方が、いまは多数派だと思います。ただ、2つの研究が調べていたのは、増やす量ではなく、材料の中身でした。
外から本物を入れずに、自分のコピーだけで回すと、見た目が正常なまま中身が削れていく。本物を混ぜ続けたほうは、崩れなかった。そこが重なった部分です。
数字を持ち帰るなら、27と9と10です。マウスは27世代目から下り坂に入り、AIの文章は9世代目で別の話になり、AIの画像は10世代目で読めなくなりました。
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お金がかかる
――兵庫県で、1万3000筆の署名に出た声
- Limitations of serial cloning in mammals(Wakayama S ほか、Nature Communications、2026年3月24日。Europe PMC経由で要旨を確認)
- クローン連続、58世代目で限界 マウスで20年間実験―有害な突然変異蓄積・山梨大(時事ドットコム)
- 無限に作れるはずのクローンのクローン、58世代で絶えた なぜ?(ナショナル ジオグラフィック日本版)
- 哺乳類の再クローニングは58世代目で限界 ― 増加する「重い突然変異」 山梨大学など(大学ジャーナルオンライン)
- 「クローンからクローン」は58世代目が限界、"突然変異"が蓄積する(ナゾロジー)
- The Curse of Recursion: Training on Generated Data Makes Models Forget(Shumailov ほか、arXiv:2305.17493)
- Using AI to train AI: Model collapse could be coming for LLMs, say researchers(Tech Xplore)
- Self-Consuming Generative Models Go MAD(Alemohammad ほか、arXiv:2307.01850/ICLR 2024。本文はar5iv版で図1・図5の記述を確認)
- Breaking MAD: Generative AI could break the internet(ライス大学ニュース)
- Is Model Collapse Inevitable? Breaking the Curse of Recursion by Accumulating Real and Synthetic Data(Gerstgrasser ほか、arXiv:2404.01413)
- 食卓からバナナが消える? 新パナマ病が南米へ(ナショナル ジオグラフィック日本版、2019年)
- バナナの種(弘前大学農学生命科学部・作物育種学研究室)
- はてなブックマーク(当該記事のコメント欄・295users)