8年間誰も見なかった教材が7.5億回

中国の謎ダンス、シャンシェンブー

写真はイメージ Photo by Alessandro Mulya on Unsplash

10/27 18:40 / 発信国:中国 / 記者:工藤

謎ダンス『シャンシェンブー』7.5億回 踊る人は中国舞踊家協会の副主席

中国で、変な足運びの動画が止まらない。名前は「闪身步(シャンシェンブー)」。片足を軸に、体をすっと横へ逃がす動きだ。関連動画の再生数は、9月下旬までに7.5億回を超えた(搜狐)。日本のTikTokにも流れてきた。で、これ、何なんだ。

元はダンスの教材映像だ。中国・安徽省の花鼓灯という踊りの、基本の足運び。踊って見せているのは趙鉄春。北京舞踊学院の教授で、中国舞踊家協会の副主席だ。謎のおじさんではなかった。

この映像がネットに置かれたのは2018年ごろ。そこから8年近く、ほとんど誰も見ていなかった。それが2026年9月下旬、急に掘り出される。周筆暢、単依純、汪蘇瀧、楊迪、張藝興。中国の歌手やタレントが次々にまねをして、数字がふくらんだ。

日本に届くまでに、何が落ちたか。若者向けのマーケティング会社がまとめた「TikTokトレンドレポート vol.54」(9月21〜27日分)は、この流行をこう書いている。「謎の動きをするおじさんの真似する動画が大ブーム」「この動きは、中国の民族舞踊の一部」。再生数は「4億回超え」。間違ってはいない。ただ、国家級無形文化遺産と舞踊家協会副主席という札は、海を渡る途中できれいにはがれていた。

分からない側が、本家と同じ側だ

「なんで流行っているのか分からない」。そう思った人は、たぶん本家と同じ側にいる。趙鉄春は取材にこう答えた。「出圈是意料之外,但也可以说是意料之中」。流行は予想外だった、でも予想のうちとも言える、という意味だ。「突然间被大众翻出来了」(急に大衆に掘り出された)とも話している。本人も、掘り出された側なのだ。

分からないまま踊らないほうがいい理由も、ちゃんとある。中国各地の病院の整形外科とスポーツ医学科に、膝を痛めた若い人が次々に来た。診断は十字靱帯の損傷。ひどい人は部分的な断裂だ(光明網、9月27日)。

なぜ膝なのか。プロは体幹やお尻、太ももの筋肉で体を支え、膝にかかる力を散らしている。素人は両足を地面に釘のように固定したまま、上半身だけを急にひねる。重心が一瞬でずれ、膝が曲がらない角度に回される。中国の緊急情報を流す国家応急放送は「屏幕里的网红动作再酷也千万不要轻易模仿」(画面の中の流行の動きがどれだけかっこよくても、軽い気持ちでまねしないで)と呼びかけた。趙鉄春も、体幹の力が要る動きだから一般の人は無理をしないほうがいいと注意している。

8年間、誰にも見られなかった教材が7.5億回。趙鉄春は、中国民間舞踊の文化は伝えていかないといけない、とも話した。分からないと言っている人は、いまのところ、その本家の注意をいちばん忠実に守っている。

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