銀って、ひとつじゃ
なかったの?
――発表を読んだ人の、最初のひとこと
写真はイメージ Photo by Scottsdale Mint on Unsplash
北大が約60年ぶり2例目の銀を発見 取っておけない結晶だった
北海道大学低温科学研究所の榊原雅也博士らが、ふだんの銀とは原子の並び方が違う銀を見つけた。発表は10月21日。ヨウ化銀に電子線を当てて分解させ、そこから銀の粒ができてくる様子を、透過電子顕微鏡で原子のレベルまで見た。出てきたのは「単純立方構造」という並びの銀ナノ粒子だった。この並びの単体の結晶が確かめられたのは、約60年ぶりで2例目になる。
同じ銀なのに、別物になるのか。
並べ方が変わると、同じ銀でも性質が変わる
ふだんの銀は面心立方構造という形で並ぶ。立方体の8つの角と、6つの面の中心に原子が入った、きっちり詰まった並びだ。指輪やスプーンの銀は、これ。
今回できた銀は、その並びではなかった。原子は同じ銀。違うのは並べ方だけ。それだけで、性質が変わった。研究グループが顕微鏡で続けて見ていくと、この銀は、安定な面心立方の銀より化学反応を起こしやすかった。
どのくらい起こしやすいのか。ふだんの銀なら何も起きない高真空の中で、この銀はじわじわと酸化して、酸化銀に変わっていった。見つけた新しい銀が、見ている間に別の物になる。
作って保存するのではなく、できて消えるところを見た
新しい物質の発見は、ふつう「作って、取り出して、調べる」。だが今回の銀は、取り出す前に変わってしまう。そこで研究グループは、保存するのをやめた。顕微鏡の中で、できる瞬間からそのあとの変化までを、続けて見た。見ること自体が、発見の手段になった。
できる条件も狭かった。ヨウ化銀にはいくつかのタイプがある。この銀が出てくるのは、γ型という、いちばん安定ではないタイプが分解したときだけだった。
コンピューターでの計算(分子動力学シミュレーションと第一原理計算)では、別のことも分かった。この並びは、銀の結晶が単独であるなら安定ではない。ナノの大きさだからこその表面や境目の効果で、どうにか形を保っている可能性があるという。小さいから成り立っている並び、ということだ。
何に使えるのかは、まだ書かれていない
新しい物質の話では、「で、何に使えるのか」が真っ先に問われやすい。だが発表に書かれているのは「未知の機能や性質を持つ革新的マテリアル探索への貢献に期待」まで。具体的な製品や用途は、まだ出ていない。「約60年ぶり」の起点がいつなのかも、読んだ発表には書かれていなかった。
それでも研究グループは、物ができる瞬間を見ながら未知の結晶構造を探す、新しいやり方を示したと書いている。安定して残る物を作るのが材料の研究だとすれば、今回は逆だ。残らない物を、残らないまま見たことが成果になった。使い道の分からない、消えてしまう物を探す研究に、どれだけ場所を空けるか。意見が分かれるのは、そこだろう。
単体の結晶で単純立方構造が確かめられていたのは、これまでポロニウムだけだった。そこに、指輪にもなる銀が2つ目として並んだ。ただし、この銀は取っておけない。
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