1位が落ちるなら、
投票はなんのため?
――東大の意向投票は、選考の材料の一つ
写真はイメージ Photo by Keming Tan on Unsplash
東大の総長選、投票2位が選ばれた 文科省が初めて検証を要請
東京大学の次期総長に、藤垣裕子教授(64)が決まった。ところが、9月28日に学内で行われた意向投票で、藤垣教授は2位だった。1位の染谷隆夫教授が1,107票、藤垣教授は553票。ほぼ半分だ。
それでも最後に決めるのは総長選考・監察会議で、この会議が藤垣教授を選んだ。任期は2027年4月1日から6年。東大で女性が総長になるのは、初めてだ。
10月20日、文部科学省が動いた。高等教育局長の合田哲雄氏が東大を訪ね、藤井輝夫総長と監事2人に宛てた文書を手渡した。選考の経緯を検証し、説明責任を果たすよう求める内容だ。関芳弘文科相はその日の閣議後の会見で「今なお選考の過程や理由について明確な説明がなされていないとの声も多く遺憾だ。十分な説明責任を果たしてもらいたい」と話した。文科省が国立大学の学長選考について検証を求めるのは、これが初めてだという。
なぜ2位が選ばれたのか
東大の仕組みでは、意向投票は選考の材料の一つにすぎない。決めるのは学内外の委員でつくる選考会議だ。面接、所信表明、推薦書、候補者の資料、意向投票を合わせて判断する。得票の多い順に決まる選挙ではないのだ。
では、何を見て藤垣教授に決めたのか。10月13日、東大の教職員の有志523人が、5つの点について説明を求める要望書を選考会議に出した。呼びかけ人は9人。名前を出したのが164人、匿名が359人で、文系理系あわせて30の部局にまたがる。選考会議は回答を出し、意向投票は「重要な判断材料の一つ」だったとしたうえで、候補5人の「強み・課題について委員が協議した」と書いた。有志の側は、まだ説明が足りないとしている。
誰のどこをどう評価したのか。その中身は、いまも出ていない。
ネットの評判
投稿をまとめたページ(Togetter)には、69件のコメントが付き、19,910回読まれている。多いのは「圧倒的な票を得た候補者を逆転させるには合理的で客観的な理由が必要」という声だ。国立大学には公のお金が入っているのだから、一定の透明性と説明が求められる、という意見も目立つ。「総合的判断」や「コミュニケーション力」といった言葉では説明になっていない、との書き込みもある。
一方で、文科大臣には学長の任命権があるのだから、選考に疑いがあれば任命を拒むこともできるはずだ、という指摘も出ている。大学の自治を心配する声より、まず説明を、という流れが強い。
「投票どおりに決めるな」と言っていたのは文科省だ
得票順で決めない仕組みを作ったのは政治の側だった。ここが少しややこしい。
2014年に学校教育法と国立大学法人法が改正され、2015年4月から、学長は選考会議が自分で定めた基準で選ぶことになった。そのとき文科省は各大学に通知を出している。意向投票そのものは禁止しないとしつつ、「投票結果をそのまま学長等選考会議の選考結果に反映させるなど、過度に学内又は機構内の意見に偏るような選考方法は適切でないこと」と書いていた(JBpressの解説より)。
社会学者の西田亮介氏は、今回の選考は法的には「ルール通り」だとしたうえで、社会に納得してもらうにはもう少し説明が必要だと書いている。共産党の宮本徹氏は、投票結果と違う学長選考は、過去20年、ほかの国立大学でもあったのに、今回だけ自民党議員が批判を始めたと指摘する。票の多い順に決めないこと自体には理屈がある、という立場だ。
もちろん、国が口を出せる根拠もある。国立大学法人法は「学長の任命は、国立大学法人の申出に基づいて、文部科学大臣が行う」と定めている。今回の要請は、運営方針会議が学長選考に意見を述べられること、監事が著しく不当な事実を大臣に報告する責務を負うことを踏まえたものだ。要請の文書は、候補者本人に示していない非公開の情報や匿名の情報を判断に使うのは不適切だとも書いている。
東大は「速やかに検証に向けて整理を行った上、学内外へしっかりと説明責任を果たしていきたい」としている。投票どおりに決めるなと各大学に伝えたのは2014年8月。その12年後に、投票どおりにしなかった理由を説明せよと求めているのが、その通知を出した側の文科省だ。
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