わかめ、たくさん
食べときなよ
――潰瘍性大腸炎の臨床試験から
写真はイメージ Photo by Paul Levesley on Unsplash
海藻の食物繊維で腸が治る仕組み、主役は細菌が出したタウリンだった
2026年10月21日、順天堂大学・慶應義塾大学・北里大学のチームが、海藻の食物繊維で傷ついた腸の粘膜が治る道筋を突き止めたと発表した。論文は同じ日、消化器の国際学術誌『Gastroenterology』の電子版に載った。
ただ、腸を治していたのは食物繊維そのものではない。それを食べた腸内細菌が出した、タウリンという物質だった。栄養ドリンクでよく名前を見る、あのタウリンだ。
働いていたのは、繊維ではなく細菌
まずはマウスの話から。大腸炎を起こさせたマウスにアルギン酸を与えると、腸の中で2種類の細菌が増えた。Bacteroides acidifaciens と Ligilactobacillus murinus という菌だ。どちらも、胆汁酸を分解する酵素の遺伝子を持っている。
この酵素が、タウリンとくっついた形の胆汁酸から、タウリンを切り離す。切り離されたタウリンは Slc6a6 という運び屋を通って腸の細胞に入り、Cyp2c55 という遺伝子を働かせる。そこで粘膜の修復が進む。
つまり「食物繊維 → 腸内細菌 → タウリン → 腸の細胞」。研究チームは、この4つをつなぐ線を新しい修復の経路として示した。
ここが、普段言われる「食物繊維は腸にいい」と違うところだ。繊維が栄養として体に吸われたわけではない。細菌のエサになり、その細菌が腸の中の化学を書き換えた。そこが効いていた。
人で試したら、数字は負けていた
では人ではどうか。チームは潰瘍性大腸炎の患者を対象に臨床試験をしている。
2020年9月から2022年9月にかけて、活動期の患者53人と健康なドナー19人が登録した。患者は菌を抑える薬を3種類、2週間飲む。そのあと、ドナーの便からつくった腸内細菌の液を大腸内視鏡で入れる腸内細菌叢移植を受ける。その翌日から、アルギン酸入りの飲料か、有効成分の入っていない飲料を、1日2回、8週間飲む。最後まで続けたのは48人。有効成分なしの群が23人、アルギン酸の群が25人だった。
結果はこうだ。臨床的な有効率は、有効成分なしの群が78.3%、アルギン酸の群が68.0%。寛解率は43.5%と43.2%。主要評価項目では、統計的に意味のある差は出なかった。
飲んだほうが低い。素直に読めば、うまくいかなかったという結果である。
ただ、便の中のタウリンの量と、大腸の粘膜での CYP2C18(マウスの Cyp2c55 にあたる人の遺伝子)の出かたは、マウスで見つけた経路に合う動きをしていた。体の中で、狙った反応そのものは起きていた。
「海藻を食べれば治る」までは、まだ遠い
この種のニュースは「海藻がいい」と受け取られやすい。実際、食物繊維の話はたいていそこで止まる。でも今回確かめられたのは、腸内細菌叢移植を受けた直後の患者が、決められた飲料を1日2回、8週間飲んだときの話だ。普段の食事で海藻を増やして同じことが起きるかは、発表の中では確かめられていない。飲料に入っていたアルギン酸が1日何グラムだったかも、大学の発表からは確認できなかった。
研究チームが次にやるとしているのは、「食物繊維―腸内細菌―タウリン―腸上皮」の経路をもっと細かく調べることと、この経路が働きやすい患者を見分けられるかを確かめることだ。全員に効く食事を探すのではなく、効く人のほうを先に見つける、という向きである。
有効率で負けた側の患者の便の中で、マウスと同じ物質が増えていた。研究が拾ったのは、その一点だった。
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