熱が出たほうが、
調子いいことある?
――100年以上前から、医者の間で言われてきた
写真はイメージ Photo by AcidFern on Unsplash
軽い炎症が、覚醒剤の過剰反応を抑えた 北大がマウスで確認
覚醒剤を繰り返し打たれて、薬にひどく敏感になったマウスがいる。そのマウスに、ごく弱い炎症を起こしてみた。すると、過剰だった反応がおさまった。
北海道大学大学院医学院の篠原陸斗さんと、北海道大学大学院医学研究院の石川修平助教らのグループが、10月22日に発表した。論文は、イギリスの薬理学の学術誌 British Journal of Pharmacology に10月5日に載っている。
炎症やストレスは、心の症状を悪くする。そう聞いてきた人のほうが多いと思う。今回の結果は、その逆だ。
「熱が出ると落ち着く」は、1887年からの話
研究の出発点は、医者の間で昔から言われてきた観察だった。感染したときや熱が出たときに、幻覚や妄想が一時的に軽くなることがある、というもの。論文も、そこから書き出している。
この観察、かなり古い。オーストリアの精神科医ワーグナー=ヤウレックは1887年に「発熱性疾患の精神病への作用について」という論文を出し、1927年にノーベル医学賞を受けた。ただ受賞の理由は、梅毒が脳に来て起こる進行麻痺に、マラリアの熱が効くと見つけたことだ。統合失調症を治したわけではない。
ならなぜ、いまマウスで試し直すのか。論文によると、これまでの動物実験は炎症の刺激が強すぎた。弱い炎症だと何が起きるかが、分かっていなかった。
1マイクログラムの炎症と、2時間の拘束
手順はこうだ。マウスに体重1キロあたり1ミリグラムのメタンフェタミンを繰り返し打つ。すると、同じ量でも反応がどんどん強くなる行動感作の状態になる。
そこに2つの刺激を入れた。1つはLPSを、体重1キロあたり1マイクログラムだけ。もう1つは、2時間だけ体を動けなくする拘束ストレスを1回。
どちらも、過剰な反応を抑えた。しかも、ほかの行動には目立った異常が出ていない。大学の発表では、自発的な動きや認知機能に明らかな影響はなかったとしている。「だるくて動かなくなっただけ」では説明がつかない、ということだ。
仕組みは一本道ではなかった。どちらの効果も、免疫の入口にあたるTLR4という受け皿を止めると消えた。ただ、その先が違う。LPSのほうはCOX-2を止めると効果が消え、拘束ストレスのほうはTNF-αが関わっていた。
拘束ストレスのあと、脳から取り出した免疫の細胞ではTNF-αが増えていた。そしてTNF-αを線条体(脳の奥にあって、ドパミンが多く集まる場所)に直接入れるだけで、同じように過剰な反応がおさまった。ドパミンの量も、拘束ストレスでは下がり、LPSでは下がらなかった。入口は同じで、途中から道が分かれる形だ。
で、人に使えるのか
ここは、はっきりさせたい。使えない。
まずマウスの話で、しかもオスだけ。論文のタイトルにも「male mice」と書いてある。メスでどうなるかは調べていない。
人のほうはどうか。炎症を抑える薬を統合失調症の治療に上乗せする試験は、すでにかなりの数がある。2019年に56件の試験をまとめた解析では、調べられた16種類のうち、症状への効果が確かめられたのはアスピリン、エストロゲン、ミノサイクリン、N-アセチルシステインの4つだった。COX-2を止めるセレコキシブなど8種類では、はっきりした効果は出ていない。
「炎症をいじれば精神症状が動く」という方向は残っている。でも、どういじればいいのかは、まだ誰も答えを持っていない。今回の研究費も、科研費とAMEDという公のお金で、治療法づくりではなく基礎研究として出ている。
多くの解説は、炎症を悪者として扱う。炎症が上がればうつも精神病も悪くなる、という向きだ。今回の研究が置いたのは、その例外にあたる1つの結果だ。弱い炎症、1回2時間のストレス、オスのマウスという限られた条件なら、逆に振れた。
研究グループが論文の結論に書いたのは、TNF-αが「さらに調べるべき候補」だということまでだ。治せる、とは一言も書いていない。
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- 軽い炎症や急性ストレスが覚醒剤の過剰反応を抑制~幻覚や妄想に関わる脳内の調節機構に新たな知見~(北海道大学プレスリリース、2026年10月22日)
- 篠原陸斗先生らの論文がBritish Journal of Pharmacologyに掲載されました(北海道大学大学院医学研究院 神経病態学分野精神医学教室)
- Low-dose LPS and acute restraint stress attenuate behavioural sensitisation in methamphetamine-sensitised male mice(British Journal of Pharmacology、2026年10月5日公開。抄録・著者・助成はEurope PMCで確認)
- An update on the efficacy of anti-inflammatory agents for patients with schizophrenia: a meta-analysis(Çakici et al., Psychological Medicine 2019。抄録はEurope PMCで確認)
- Julius Wagner-Jauregg: pyrotherapy, Simultanmethode, and 'racial hygiene'(The James Lind Library)
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