いきなり何もかも
忘れるわけじゃないのよ

――認知症だった祖父を見た孫が

写真はイメージ Photo by Mathias Reding on Unsplash

11/3 08:29 / 発信国:日本 / 記者:宮村

認知症はいきなりじゃない 祖父は夜中にむせび泣き、新聞に名前を書き続けた

認知症だった祖父が、新聞やティッシュに自分の名前と生年月日と住所を書き続けていた。夜中に1人でむせび泣いていた。胃潰瘍に3回なった。

この話を10月29日にXに書いたのは、べにひいろ(@akayf1)さんだ。「認知症っていきなり何もかも忘れて紙食べてウンコ塗りたくるわけじゃないのよ(´・ω・`)徐々に進んで自覚ある人も多い」。そう始まる投稿は、やりとりをまとめたページ(Togetter)に載り、10月31日の時点で37,626回読まれている。

「自覚ある人も多い」は本当か

まず、ここが気になると思う。認知症になった本人に、自分の変化が分かるのか。

国立長寿医療研究センターの認知症臨床研究・治験ネットワークの説明によると、「認知症の初期症状でもっとも多いのはもの忘れですが、意欲、自発性の低下やうつ症状、言葉の障害、注意力低下などが見られます」。もの忘れだけが先に来るのではなく、気分の落ち込みも初期から出るという話だ。

その手前には軽度認知障害(MCI)と呼ばれる段階がある。国の推計では、2022年の時点で65歳以上の認知症が約443万人、MCIが約559万人。合わせて1,000万人を超える。2040年には認知症が約584万人、MCIが約613万人になりそうだという。

では、胃潰瘍3回はなぜか。べにひいろさんは「認知症になった自分がつらくてストレスで」と書いている。これは家族から見た説明で、医師の診断ではない。ただ、名前と生年月日と住所を書き続けるのは、忘れると分かっている人の動きに見える。

ネットの評判

Togetterのまとめには、似た経験を書いた人の声が並んでいる。自覚がある初期がいちばん苦しかった、という声。できることとできないことが入り混じる「まだら」の時期が辛かった、という声。記憶が消えるのが不安で、名前や住所を何度も書いていた、という話も複数ある。このまとめは、はてなブックマークが44件付き、人気の「暮らし」で3位に入った。

声の多くは、本人ではなく、そばで見ていた家族からのものだ。

国は2024年に「見方」を変えた

ここは、あまり知られていない。

官公庁の建物
写真はイメージ Photo by Fumiaki Hayashi on Unsplash

2024年1月に認知症基本法が始まり、それに基づく「認知症施策推進基本計画」が2024年12月3日に閣議で決まった。計画が打ち出したのは「新しい認知症観」。認知症になった人も「個人としてできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間と共に、希望を持って自分らしく暮らすことができる」という見方だ。

計画は、いまの状況をこう書いている。認知症になると「何も分からなくなり、できなくなる」という考え方が根強く残っていて、本人の意思が十分に尊重されず、地域で孤立しがちだ、と。根強く残っていると認めたのは、国の側だ。

相模原市認知症疾患医療センターのコラムで、医師の大石智さんはこう書いている。「『認知症になったら何も思い出せなくなる』『認知症になったら何も考えられなくなる』というスティグマがあると、認知症への過度な恐れを生み出し、医療機関を受診することや支援につながることを遅れさせる」

怖がらせる言い方は、受診を遅らせる。怖い病気として伝えてきた側には、きつい指摘だ。

認知症の本人たちが作った団体、日本認知症本人ワーキンググループは、2018年11月1日に「認知症とともに生きる希望宣言」を出した。その1番目は「自分自身がとらわれている常識の殻を破り、前を向いて生きていく」。最初に向き合う相手として挙げられているのは、周りの人ではなく自分自身だった。

べにひいろさんは、反響が広がったあとにこう書いている。「この経験もあり介護職してて。家族としての目線思いは心の芯として持ち続けたい思いますまる」。祖父の夜を見ていた孫は、いま人の介護を仕事にしている。

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