熱が出たほうが、
調子いいことある?

――100年以上前から、医者の間で言われてきた

写真はイメージ Photo by AcidFern on Unsplash

10/23 15:12 / 発信国:日本 / 記者:工藤

軽い炎症が、覚醒剤の過剰反応を抑えた 北大がマウスで確認

覚醒剤を繰り返し打たれて、薬にひどく敏感になったマウスがいる。そのマウスに、ごく弱い炎症を起こしてみた。すると、過剰だった反応がおさまった。

北海道大学大学院医学院の篠原陸斗さんと、北海道大学大学院医学研究院の石川修平助教らのグループが、10月22日に発表した。論文は、イギリスの薬理学の学術誌 British Journal of Pharmacology に10月5日に載っている。

炎症やストレスは、心の症状を悪くする。そう聞いてきた人のほうが多いと思う。今回の結果は、その逆だ。

「熱が出ると落ち着く」は、1887年からの話

研究の出発点は、医者の間で昔から言われてきた観察だった。感染したときや熱が出たときに、幻覚や妄想が一時的に軽くなることがある、というもの。論文も、そこから書き出している。

古い医学書が並ぶ棚
写真はイメージ Photo by Thomas Kelley on Unsplash

この観察、かなり古い。オーストリアの精神科医ワーグナー=ヤウレックは1887年に「発熱性疾患の精神病への作用について」という論文を出し、1927年にノーベル医学賞を受けた。ただ受賞の理由は、梅毒が脳に来て起こる進行麻痺に、マラリアの熱が効くと見つけたことだ。統合失調症を治したわけではない。

ならなぜ、いまマウスで試し直すのか。論文によると、これまでの動物実験は炎症の刺激が強すぎた。弱い炎症だと何が起きるかが、分かっていなかった。

1マイクログラムの炎症と、2時間の拘束

手順はこうだ。マウスに体重1キロあたり1ミリグラムのメタンフェタミンを繰り返し打つ。すると、同じ量でも反応がどんどん強くなる行動感作の状態になる。

そこに2つの刺激を入れた。1つはLPSを、体重1キロあたり1マイクログラムだけ。もう1つは、2時間だけ体を動けなくする拘束ストレスを1回。

どちらも、過剰な反応を抑えた。しかも、ほかの行動には目立った異常が出ていない。大学の発表では、自発的な動きや認知機能に明らかな影響はなかったとしている。「だるくて動かなくなっただけ」では説明がつかない、ということだ。

仕組みは一本道ではなかった。どちらの効果も、免疫の入口にあたるTLR4という受け皿を止めると消えた。ただ、その先が違う。LPSのほうはCOX-2を止めると効果が消え、拘束ストレスのほうはTNF-αが関わっていた。

拘束ストレスのあと、脳から取り出した免疫の細胞ではTNF-αが増えていた。そしてTNF-αを線条体(脳の奥にあって、ドパミンが多く集まる場所)に直接入れるだけで、同じように過剰な反応がおさまった。ドパミンの量も、拘束ストレスでは下がり、LPSでは下がらなかった。入口は同じで、途中から道が分かれる形だ。

で、人に使えるのか

ここは、はっきりさせたい。使えない。

錠剤のシート
写真はイメージ Photo by Brett Jordan on Unsplash

まずマウスの話で、しかもオスだけ。論文のタイトルにも「male mice」と書いてある。メスでどうなるかは調べていない。

人のほうはどうか。炎症を抑える薬を統合失調症の治療に上乗せする試験は、すでにかなりの数がある。2019年に56件の試験をまとめた解析では、調べられた16種類のうち、症状への効果が確かめられたのはアスピリン、エストロゲン、ミノサイクリン、N-アセチルシステインの4つだった。COX-2を止めるセレコキシブなど8種類では、はっきりした効果は出ていない。

「炎症をいじれば精神症状が動く」という方向は残っている。でも、どういじればいいのかは、まだ誰も答えを持っていない。今回の研究費も、科研費とAMEDという公のお金で、治療法づくりではなく基礎研究として出ている。

多くの解説は、炎症を悪者として扱う。炎症が上がればうつも精神病も悪くなる、という向きだ。今回の研究が置いたのは、その例外にあたる1つの結果だ。弱い炎症、1回2時間のストレス、オスのマウスという限られた条件なら、逆に振れた。

研究グループが論文の結論に書いたのは、TNF-αが「さらに調べるべき候補」だということまでだ。治せる、とは一言も書いていない。

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