注射の前に、まず手でつかむ
オーストラリア・タスマニア州の無人島で
世界初の野生アホウドリへのワクチン接種は無人島の力仕事だった
オーストラリア・タスマニア州の無人島で、野生のハジロアホウドリに鳥インフルエンザのワクチンを打つ作業が始まった。打つのは最大100羽。州の天然資源環境省は、分かっているかぎり世界初の試みだとしている。
「ワクチン接種」と聞くと、清潔な台に注射器が並んだ静かな部屋を思い浮かべる。現場は、まったく違う。
場所はバス海峡の西にあるアルバトロス島。キング島の近くの無人島だ。アホウドリを守る国際協定ACAPによると、島に入るにはボートで90分。島の北の大きな海食洞に寝床を作る。島での一日は長く、夕方は、「荒れた地面をよじ登り、鋭いくちばしをかわし続ける数時間」から体を休めるのだという。これは接種ではなく、同じ島で続く調査の記録だ。
接種のやり方も、その調子だ。州の説明によると、巣についている鳥を、職員が手でつかむ。アホウドリの扱いに慣れた人が、訓練を受けてあたる。そのまま押さえて、状態を見て、体重を量って、打つ。そばで、経験のある野生動物の獣医が見ている。どの鳥に打ったか分かるよう、無毒で落ちる塗料で印を付け、巣には番号の札を立てる。番号が付くのは鳥ではなく、巣のほうだ。
なぜ、そんな力仕事をするのか。
餌にワクチンを混ぜて野生の鳥にまく方法は、まだ実用になっていないという。しかも効かせるには、3〜4週間のあいだに1羽へ2回打つ必要がある。同じ1羽を、もう一度見つけてつかむことになる。巣に座り続けるアホウドリだから、それができる。タスマニア州のガイ・バーネット環境・気候変動相は「この鳥たちは営巣中に安全に近づけるので、必要な2回分のワクチンを与えられる」と話した。手でつかむやり方を選んだのではない。この鳥だから成り立っている。打てる羽数は、天候や上陸の条件、繁殖を邪魔せずに2回打てるかどうかで変わる。
ここが面白くて、同時にさみしい。WOAHは、野生の鳥の群れへの大規模な接種を「通常、非現実的とみなされる」としている。1羽ずつつかんで、数週間後にもう一度つかむ。この手間を何万羽にも広げるのは、まず無理だろう。
ハジロアホウドリはタスマニアの3島でしか巣を作らない。州の法律では、絶滅のおそれがある種だ。繁殖するペアは世界で推定1万5000組。人が上陸できるのはアルバトロス島だけだ。タスマニアでは8月の初確認から、H5の事例が50件あった。キング島では、コガタペンギン150羽が死んだ。
州の生物学者シェリル・ハミルトンは、今回を試しだと説明している。もっと広く打つやり方が現実にできるのか、その判断の材料にするのだという。100羽は、種を守りきる数字ではない。人の手が届く上限を、そのまま書き写した数字に見える。
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お金がかかる
――兵庫県で、1万3000筆の署名に出た声
- Shy albatross colony on remote Tasmanian island to receive bird flu vaccine in complex operation(ABC News)
- Shy albatross vaccinated against bird flu in world-first Tasmanian trial(Pulse Tasmania)
- Shy Albatross(タスマニア州天然資源環境省)
- Featuring ACAP-listed species and their photographers: the Shy Albatross by Kris Carlyon(ACAP)
- Why we should seriously consider vaccinating wild birds to control bird flu(Bulletin of the Atomic Scientists)