ごはんも電気も、
全部となりからもらう
――静岡の下田沖で見つかった微生物
写真はイメージ Photo by masakazu sasaki on Unsplash
遺伝子189個でも生き物はやっていけるらしい
静岡県下田市沖で採ったプランクトンを調べたら、見たことのない微生物が出てきた。それも、ゲノムが異様に小さい。大きさは23.8万塩基対で、タンパク質を作る遺伝子は189個だけ。古細菌としては、これまで読まれた中でいちばん小さいゲノムだという。
発表したのは、京都大学、筑波大学、東京大学、山形大学、海洋研究開発機構などの研究チーム。論文は2026年10月、科学誌カレント・バイオロジーに載った。名前はCandidatus Sukunaarchaeum mirabile。日本神話に出てくるごく小さな神、少名毘古那(スクナビコナ)にちなんで、スクナ古細菌と呼ぶ。
ヒトは約2万個、こちらは189個
で、どのくらい小さいのか。ヒトのゲノムは約30億塩基対で、遺伝子は約2万個ある。塩基対の数で比べると、スクナ古細菌はヒトの約1万2,600分の1。遺伝子の数でも、100分の1ほどだ。
ヒトの分を1,000ページの本とすると、スクナ古細菌の分は1ページの10分の1も使わない。
古細菌の記録も、大きく動いた。これまで最小とされていたのはNanoarchaeum equitansで、約49万塩基対。スクナ古細菌は、その半分以下だった。
作るのをやめたのは、栄養とエネルギー
小さいだけの話なら、ここで終わる。ただ、中身の削り方が変わっていた。発表によると、スクナ古細菌のゲノムには、栄養やエネルギーを作る遺伝子がほとんど見当たらない。生きるのに必要なものは、ほかの生物から全面的にもらっているらしい。
では、189個は何に使っているのか。DNAを複製し、RNAに写し、タンパク質を組み立てる。この流れを動かす仕組みは、肝心の部品がほとんど残っていた。タンパク質を作るときに使うリボソームも、自分の分の遺伝子を持っている。
ウイルスとの違いは、そこだ。ウイルスがタンパク質を作るときは、宿主のリボソームを借りる。スクナ古細菌は、それを自分で持っている。この一点が、生き物とウイルスの線引きをあいまいにしている、という見方が出ている。
残っている遺伝子にも、謎がある。山形大学の発表によると、ゲノムの約4分の1は、働きの分からない巨大な膜タンパク質の遺伝子で埋まっていた。ほかの生物に取りついて暮らしているのではないか、と見られている。
虫の体の中で暮らす細菌も、ゲノムは小さい。ただ、そういう細菌はたいてい、住まわせてもらう代わりに、相手に足りない栄養を自分で作る。スクナ古細菌は、それをしない。
なぜ、ここまで捨てたのか。発表の中に答えはない。だれに寄りかかっているのか、つまり宿主がどの生き物なのかも、まだ特定できていない。細胞の形も分かっておらず、培養にも成功していない。見つけ方は単細胞ゲノム解析。渦鞭毛藻というプランクトンの細胞1個を読んだ結果だった。
ネットの評判
この話は、2025年に論文の草稿(査読前の原稿)が公開された時点でも取り上げられている。科学の記事を出しているサイト「ナゾロジー」の記事のコメント欄では、自分の周りに重ねる冗談が目立つ。日本のサラリーマンのことだ、という書き込みもあった。
一方で、生き物の線引きを問う声も多い。「たしかに。彼らは本当に生物なのだろうか。」「人間が勝手に決めた定義に当てはまらないだけで、本当はウイルスも生物なんだろうな」。この先はミトコンドリアや葉緑素になるのでは、と想像するコメントや、「それらは互恵的共生関係なのでは?」と関係を疑うコメントも並んでいた。はてなブックマークのほうは静かだ。筑波大学の発表に付いたブックマークは2件、コメントは1件。代謝の遺伝子をほぼ持たない点に触れるものだった。
宿主がだれなのかも、細胞の形も、まだ分かっていない。確かなのは、遺伝子189個でもやっていける生き方が、下田沖の海に実際にあったということだ。
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お金がかかる
――兵庫県で、1万3000筆の署名に出た声
- 栄養もエネルギーも自分でつくらない微生物「スクナ古細菌」を発見(京都大学)
- 栄養もエネルギーも自分でつくらない微生物「スクナ古細菌」を発見(筑波大学)
- 栄養もエネルギーも自分でつくらない微生物「スクナ古細菌」を発見(山形大学)
- 栄養もエネルギーも自分でつくらない微生物「スクナ古細菌」を発見(海洋研究開発機構)
- 栄養もエネルギーも自分でつくらない微生物「スクナ古細菌」を発見(筑波大学 計算科学研究センター)
- A cellular entity retaining only its replicative core: Hidden archaeal lineage with an ultra-reduced genome(bioRxiv・査読前の草稿)
- 古細菌で最小のゲノムを発見 「スクナ古細菌」は189遺伝子で複製の中核を保持(財経新聞)
- 生命と非生命の境界線をまたぐ謎の古細菌を発見(ナゾロジー、2025年7月7日・コメント欄)
- 遺伝子とゲノム(DDBJ・国立遺伝学研究所)
- はてなブックマーク(筑波大学の発表)
