時速110キロで、
回線が切れるんだけど

――ウクライナの第7空挺強襲軍団が

写真はイメージ Photo by Bernd 📷 Dittrich on Unsplash

10/22 08:00 / 発信国:アメリカ / 記者:工藤

ウクライナのドローンを止めた速度制限、指示したのはマスク氏本人 WSJ報道

米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が10月20日、ウクライナ軍が使う衛星通信スターシールドの速度制限を、イーロン・マスク氏本人が指示していたと報じた。制限がかかったのは10月14日の夜。ウクライナ軍への事前の知らせはなく、時速160キロほどを超えて動く端末はつながらなくなった。だれが、それを決めたのか。ここが、まだ決着していない。

本誌は10月16日、この速度制限でウクライナ軍のドローンが飛べなくなったことを伝えた。そのときは、米政府の判断なのか、スペースXの判断なのかが分からないままだった。WSJが今回足したのは「マスク氏が自分で指示した」という一点だ。米政府の当局者らの話として報じている。なぜ時速160キロで区切ったのか。その理由は、報じられた範囲では示されていない。

現場では、時速110キロでも切れていた

この騒ぎで、ほとんど語られていないのが現場の声だ。ウクライナの第7空挺強襲軍団は10月14日、グリャイポレ方面での作戦中に、飛行中のドローンで10〜20秒ほど通信が切れたと発表した。切れたのは時速110〜120キロのとき。公表された上限の160キロより、ずっと遅い速度だ。部隊は、通信が切れるとドローンの操縦が難しくなり、速度を落とせば敵に狙われやすくなると説明した。担当する区域では、通信の問題でいくつかの戦闘任務を中止したという。

地球を回る通信衛星のイメージ
写真はイメージ Photo by NASA on Unsplash

速さは、どれだけ要るのか。ロシアが飛ばすジェットエンジン付きのシャヘドは、時速300キロほどで飛ぶ。これを追って落とす迎撃ドローンには、時速450キロまで安定してつながる回線が要る。ウクライナの国防関係者が、キーウ・ポストにそう話している。上限160キロでは、土台無理な話。

10月15日には、動きながら使う部隊の通信が一部戻った。ただ、制限がすべて外れたのかは明らかになっていない。大統領府で国防技術の顧問を務めるセルヒー・ベスクレストノフ氏(通称フラッシュ)は10月20日、160キロの制限はまだ残っていると話した。機器は時速130〜161キロのあたりで不調になるという。攻撃ヘリはそれより速く飛ぶため、シャヘドを落とす航空機への通信も影響を受けている、というのがベスクレストノフ氏の説明だ。

だれも「自分が決めた」と言わない

マスク氏はX(旧ツイッター)で、スターシールドは米政府が所有し管理しているもので、速度や利用の制限は米軍、最終的には米大統領が決めていると書いた。トランプ大統領は10月19日、制限を求めたことはないと話した。だれが速度を落としたのかも知らない、という。ピート・ヘグセス国防長官は、国防総省はスターシールドのサービス変更を指示していないと強調し、何も縮小していないと話した。マスク氏も、米軍も、大統領も、自分ではないと言っている。

では、だれが外せるのか。ウクライナ側は、責任の所在よりも先に、回線を戻すことに動いた。前の国防相のミハイロ・フェドロフ氏は10月14日の20時53分、テレグラムで、時速160キロまでならStarlinkの動作が戻りつつあり、攻撃ドローンと迎撃ドローンはまた飛べるはずだと書いた。そのうえで、速度制限は完全に外す必要があると強調している。ゼレンスキー大統領も、マルコ・ルビオ米国務長官とこの件を話した。市場の反応は速かった。フランスの衛星通信ユーテルサットの株価は、1日で23%上がった。

ネットの評判

この話題は、はてなブックマークの「人気・政治と経済」で上位に入り、87人がブックマークした。コメントで多いのは、一つの民間企業の社長が国の防衛に関わる仕組みを止められること自体への批判だ。米国製の装備や通信に「止めるスイッチ」があると見られれば、米国自身の信用が傷つく、という指摘もある。一方で、社長に本当にそんな権限があるのかを疑う声も多い。国防総省、マスク氏、報道の言い分が食い違っていて、だれが本当のことを言っているのか分からない、という戸惑いが目立つ。ウクライナ側が作戦の失敗を人のせいにしているのではないか、と見る書き込みもある。日本も、暮らしや防衛の仕組みを米国の企業に預けている点は同じだ、と書く人もいた。

現場が待っているのは、だれが指示したかの答えではない。時速160キロの上限が外れることだ。10月20日の時点で、それはまだ外れていない。

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