涙は重力に従うようになった。
もう慣れていなかった
――237日ぶりに地球へ降りた飛行士が
写真はイメージ Photo by NASA on Unsplash
宇宙に237日いた飛行士、リハビリは3週間 骨は1年後も戻りきらない
10月10日の朝、ドイツのケルン空港で、フランスの宇宙飛行士ソフィー・アドノが飛行機を降りた。44歳。両脇を欧州宇宙機関の医師2人が支えていた。地面に立つのは、8か月ぶりだった。
その2日前の10月8日、アドノが乗ったドラゴン宇宙船は、アメリカ・カリフォルニア沖の海に着水した。ESAの発表では、ヨーロッパの時間で17時34分。国際宇宙ステーションでの滞在は237日5時間18分だった。ひと続きの飛行では、ヨーロッパの飛行士でいちばん長い。
なぜ、すぐには歩けないのか
ケルンで、アドノは帰ってから初めて公の場に立った。「人間の感情のすべてを通り抜けた」(訳)。涙のことにも触れた。「涙は重力に従うようになった。もう慣れていなかった」(訳)。今の体については、こう言った。「赤ちゃんが歩き方を覚えるみたいに、生き方をもう一度覚えている感じ」(訳)。
体の中では、何が起きているのか。NASAの説明では、宇宙にいる間に血液の量が減り、心臓や血管も細くなる。だから地上に戻ると、立ったときに血圧を保てず、めまいや失神が起きる人がいる。ESAの医師ビンバ・ホイヤー氏は、帰ってから最初の48時間は血圧が大きく下がり、気を失う危険があると話している。
骨も減る。NASAの推定では、宇宙にいる間、骨の中身の詰まり具合(骨密度)は1か月あたり1〜1.5%落ちる。
ふらつくのは、アドノだけではない。NASAが帰ってきた飛行士に聞いた記録に、デンマークのアンドレアス・モーエンセン氏の言葉がある。「目を閉じると、まっすぐ歩くのはほとんど無理だった」(訳)。ジャスミン・モグベリ氏は、最初の2日はふらふらで、頭を支える首が疲れた、と答えている。
リハビリは3週間、骨はその先
アドノはこれから、ケルンのenvihabという施設で、2〜3週間のリハビリに入る。最初の3日は、体の検査にあてる。そのあとは、プールでの運動と理学療法を、とても軽いものから始める。10日ほどして神経の検査を通れば、車の運転も許される。15日を過ぎると、ボールやトランポリン、縄跳びも使う。
では、3週間で元どおりになるのか。ルモンド紙は、体の数値がすっかり戻るまでに6か月から1年はかかる見込みだと伝えている。骨は、それより遅いことが分かっている。飛行士94人を調べた医学の研究では、宇宙から帰って1年たった時点で、飛行前の骨密度に戻っていたのは、股関節で34%、背骨で46.8%の人だけだった。股関節で見れば、3人に2人は1年後もまだ戻っていない。ただ、この研究では、骨折が増えたという結果は出ていない。
8か月の滞在で、アドノは船外活動を3回、合わせて19時間42分こなした。船外活動をしたフランス人女性は、アドノが初めてだ。ヨーロッパが用意した35件の実験にも、218時間ほどを使ったとESAは発表している。
旅のなかでいちばんきつかったのは、着水してからだったという。カプセルの中で待つ時間だ。海が荒れていて、20分ほど揺さぶられた。それでも外に出たとき、迎えの隊員に冗談を言った。「宇宙に送ってください、お願い」(訳)。空港には、車いすも置かれていた。アドノは座らなかった。話をする台の前まで、最後の数メートルは自分の足で歩いた。
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