お湯で、
氷に穴を開ける
――ノーベル賞をとった「望遠鏡」の作り方
写真はイメージ Photo by Torsten Dederichs on Unsplash
ノーベル賞の「氷の望遠鏡」 何とも反応しない粒子をどう見るのか
2026年のノーベル物理学賞が10月6日に発表され、米ウィスコンシン大学マディソン校のフランシス・ハルツェン教授(82)が単独で受賞した。スウェーデン王立科学アカデミーが挙げた理由は、南極の氷の中に作られた「アイスキューブ・ニュートリノ観測所」への決定的な貢献と、宇宙から来る高エネルギーのニュートリノの発見である。
ニュートリノは、物質をほとんど素通りしてしまう粒子だ。米物理誌フィジックス・トゥデイによれば、毎秒何兆個ものニュートリノが人の体を通り抜けている。それでも、痕跡は何も残らない。
痕跡を残さないものを、どうやって見るのか。
お湯で穴を開け、センサーを5160個沈めた
作り方は単純である。南極点の氷に、太さ10センチのホースで高圧の熱水を送り、氷を溶かして穴を開ける。掘る速さは毎分2メートルほどだった。こうして86本の穴を作った。
そこへ、直径13インチ(約33センチ)のガラス球に収めた光センサーを、1本のケーブルに60個ずつ取り付けて沈めていく。1本を沈め終えるのに平均11時間かかった。水で満たされた穴は、すぐに凍り始める。センサーは、深さ1450メートルから2450メートルまでに並び、合計5160個になった。
レンズも鏡もアンテナもない。氷そのものが、望遠鏡の本体である。場所が南極なのは、深い氷が非常に透明で、ほかからの干渉を受けず、地震もないからだ。科学技術振興機構のサイエンスポータルと王立科学アカデミーが、そう説明している。
見ているのは、氷の中を走る青い光
ニュートリノは、何とも反応しないわけではない。ごくまれに、氷の中の原子核とぶつかる。
ぶつかると、電気を帯びた別の粒子が生まれる。その粒子は、氷の中を進む光より速く走る。このとき青い光が出る。チェレンコフ光と呼ばれる光だ。
5160個のセンサーは、この光が自分のところへ届いた時刻を記録し、地上の建物へ送る。時刻の細かさは、1個あたり1.2ナノ秒(10億分の1.2秒)ほどだ。センサーごとの時刻のずれを並べると光の模様ができ、そこから、元のニュートリノが飛んできた方向とエネルギーが分かる。
つまり、ニュートリノ自体は誰も見ていない。見ているのは、ニュートリノが氷の中に一瞬だけ残した青い足跡である。ぶつかる確率が小さすぎるので、待ち受ける氷が1立方キロメートルも必要になる。
構想から完成まで23年
ハルツェン氏がこの構想を示したのは1988年。着工は2004年、完成は2011年だった。太陽系の外から来た高エネルギーのニュートリノをとらえたという発表は2013年、放射源の天体を初めて特定したという発表は2018年である。参加するのは14カ国58機関の450人を超える研究者で、日本の機関は千葉大学ハドロン宇宙国際研究センターだけだ。
同センター長の吉田滋教授は6日午後、千葉市稲毛区の千葉大で記者会見し「誰も見たことのない宇宙を垣間見ることができた。大変うれしい受賞」と述べた。2002年に参加した当時は「周りは反対した。半信半疑だった」という。
南極の氷の底で光を待っている5160個のセンサーの中身は、浜松ホトニクスという日本の会社が作る、直径10インチの光電子増倍管である。
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- The Nobel Prize in Physics 2026(スウェーデン王立科学アカデミー)
- IceCube Detector(アイスキューブ・ニュートリノ観測所 公式)
- The IceCube Neutrino Observatory: Instrumentation and Online Systems(IceCube共同研究の論文、arXiv:1612.05093)
- ハドロン宇宙国際研究センターが参加する国際共同研究がノーベル物理学賞を受賞(千葉大学)
- ノーベル物理学賞 宇宙の謎に挑む「アイスキューブ」実験主導者に(科学技術振興機構 サイエンスポータル)
- 千葉大教授ら「大変うれしい」 アイスキューブ参加―ノーベル賞(時事ドットコム)
- Francis Halzen to receive 2026 Nobel Prize in Physics for cosmic neutrino detection(Physics Today)
- Francis Halzen wins Nobel Prize in Physics(Physics World)
- Francis Halzen wins Nobel Prize in physics for IceCube Neutrino Observatory research(NBC News)
- Francis Halzen wins Nobel Prize in physics for work on high-energy neutrinos of astrophysical origin(Washington Times)
- 会社情報(浜松ホトニクス)
- Announcement of the 2026 Nobel Prize in Physics(YouTube、本文に埋め込み)