下水道の補助金は出た。でも、
工事をする人がいない

――担当職員は24年で約2万人減った

10/21 17:31 / 発信国:日本 / 記者:工藤

八潮の陥没、遺族が1億2500万円を請求 下水道を直す人は足りているのか

埼玉県八潮市で2025年1月、県道が陥没してトラックが転落し、運転手の男性=当時74歳=が亡くなった事故で、男性の娘3人が埼玉県を訴えた。求めているのは、計約1億2500万円の損害賠償。提訴は7月28日付で、分かったのは10月21日だ。訴えられたのは、現場の地下にある下水管を管理していた県だ。

訴状は、その下水管が「県が管理する公共施設としてあるべき安全性を欠き、管理のかしがあった」と主張している。亡くなった男性については「日々事故を起こさぬよう細心の注意を払って業務に従事していた」とある。それなのに起きたのは「突然道路が陥没し、車両ごと落下したという歴史的にみても例を見ない悲惨なもの」だった、とも書かれている。大野元裕知事は「現在、訴状の内容を精査しているところで、今後とも適切に対応していく」と話した。

男性は事故の直後、まだ会話ができる状態だった。それでも救助は進まず、遺体が下水管の中で見つかったのは、同じ年の5月2日だ。

なぜ、道に穴が開いたのか

県が設けた原因究明委員会は、2026年2月19日の会合で最終報告書を取り上げた。訴状によれば、現場の下水管は「硫化水素による腐食などで、本来有するべき安全性を欠いていた」。硫化水素は、下水道の世界では昔から知られた敵だ。東京新聞は、事故の3年前の定期検査で腐食のリスクが見逃され、第三者委員会が点検の仕組みの不備を指摘したと伝えている。

ここから、話は八潮だけのものではなくなる。

管は古くなり、人は半分近くに

国土交通省によると、全国の下水管の長さは合わせて約50万キロ。このうち、標準の耐用年数50年を超えたものが約4万キロ(約7%)ある。10年後には約11万キロ(約22%)、20年後には約23万キロ(約45%)になる見込みだという。20年たてば、2本に1本近くが「年を取った管」になる。

では、だれが見て回るのか。ここが、きつい。下水道を担当する自治体の職員は、1997年度の4万7000人から、2021年度には2万6900人になった。24年で約2万人減ったという。下水管に関係する道路の陥没は、2022年度に2600件。ほとんどは深さ50センチ未満の小さなものだ。

遺族が県を訴えた構図の裏で、同じ古い管を抱える自治体から出ているのは、お金の話だけではない。使いやすい補助金を求める声と並んで、補助金があっても人材不足で工事が進まない、という心配の声が上がっている。お金が付いても、設計して、発注して、立ち会う職員がいない。ただ、現場の技術者が名前を出して「次はうちかもしれない」と語った声そのものは、出典では確かめられなかった。

国も動いた。八潮の事故を直接の背景に、改正下水道法が用意された。点検の回数を増やす案も、国の検討会で議論されている。ただ、この改正では、下水道料金のもとになる原価に「将来の改築に必要な資金として積み立てるべき額」を加える考え方も明記される。点検を増やすお金の出どころは、使う人の料金だ。

ネットの評判

提訴を伝えたYahoo!ニュースの記事には、1100件を超えるコメントが付いた。多いのは遺族を支持する声だ。道路に穴が開く事態は予見できないから運転手に落ち度はない、腐った管を放っておいた県の責任は重い、という意見が目立つ。5ちゃんねるの書き込みをまとめたサイトでも「これはやるべき」「もっと払ってあげなさい」と並んだ。

一方で、金額を疑う声もある。亡くなった男性が74歳だったため、逸失利益の計算では1億円は通りにくい、年収と平均余命から見れば1000万〜2000万円が相場だ、という指摘だ。補償は必要だが、法律上の額には限界がある、という立場だ。コメント欄には、国内のインフラの古さを心配する声や、海外への支援より国内を先にすべきだという声もあった。

下水管は約49万キロ(2022年度末)、それを担当する自治体の職員は2万6900人(2021年度)。1人あたり18キロ分を受け持つ計算になる。

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