虫よけと、網戸と、
ゆったりした長い服

――過去最多の流行に、EUの機関が勧めた備え

写真はイメージ Photo by National Institute of Allergy and Infectious Diseases on Unsplash

10/16 13:53 / 発信国:ベルギー / 記者:工藤

西ナイル熱がEUで過去最多 89年たっても人のワクチンはない

ヨーロッパで、蚊が運ぶ病気がこれまでにない規模で広がっている。EUの感染症の機関ECDCが、10月15日に数字を出した。10月7日までに、EUの中で西ナイル熱にかかった人は1715人。記録のある中でいちばん多い。亡くなった人は130人。

最も多いのはイタリアの748人。ギリシャの445人とフランスの144人も、それぞれ過去最多だ。オランダは59人。ベルギーでは15人の域内感染が確認された。ベルギーで国内の感染が出たのは初めてだ。ロイター通信によると、過去10年の平均は693人。今年はその約2.5倍だ。

「またパンデミックか」。そう思った人もいるだろう。たぶん、違う。

人から人へは、広がらない

西ナイルウイルスは、蚊と鳥の間を行き来している。ウイルスを持った鳥を刺した蚊が、人や馬を刺す。今年は馬の仲間で511件、鳥で595件の発生も報告されている。

WHOの説明では、普段の接触で人から人へうつった例は記録されていない。輸血や移植によるまれな感染は報告されている。人が次々にうつし合って広がる形ではない、ということになる。ECDCが挙げた備えにも、マスクや人数の制限は出てこない。

ECDCによると、入院した人、神経の症状が出た人、亡くなった人の割合は、この10年の水準を下回っている。感染しても、約8割は症状が出ない。重い形になるのは150人に1人ほどだと、WHOは書いている。

ここまでなら「正体が分かっているだけ、まだマシ」と言える。

名前が付いて89年。それでも

名前の由来は、ウガンダの西ナイル地方だ。1937年、この地方の女性から初めて取り出された。それから89年になる。では、その89年で何ができたのか。馬に打つワクチンはできた。人のワクチンは、WHOによると、まだない。

試験は行われてきた。ただ、北アメリカでの20年あまりを振り返った論文がある。人を対象にした試験で、いちばん大きな最後の段階まで進んだものはない。理由は、流行が年によって散らばって起きることだ。どこで何人が感染するか見えないと、大人数で確かめる試験が組みにくい。

治療も同じだ。WHOによると、効く薬はない。熱や痛みを和らげ、重ければ入院して支える。

日本はどうなのか

日本の蚊からは、このウイルスはまだ見つかっていない。愛知県衛生研究所によると、国内の患者は2005年にアメリカのカリフォルニアで感染したとみられる1人だけだ。ただ、同じ研究所は「日本に生息する多くの蚊がこのウイルスを媒介できる」と書き、国内に入れば流行の可能性があるとしている。だから空港の検疫所が蚊を捕まえ、ウイルスを調べている。この病気は四類感染症に指定されている。

窓にはまった網戸の網目
写真はイメージ Photo by Shashank Shekhar Mishra on Unsplash

では、なぜ北へ広がったのか。ECDCの今回の発表に、理由は書かれていない。オレ・ホイアー部門長は「西ナイルウイルスの出方は年によって大きく変わり、予測がむずかしい」と話している。ただ同じECDCは7月に、暖かく湿った季節が長くなり、外から来た蚊が、少なかった土地でも増えていると発表した。

ホイアー部門長が挙げた備えは、早く見つけることと、蚊を減らすことだ。一人ひとりには、虫よけ、夕方から夜はゆったりした長い服、網戸、蚊帳、エアコンを勧めている。1937年に見つかったウイルスに、人のワクチンも、効く薬もまだない。手元にあるのは、その5つだ。

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